規則に厳しい恋の神ーージャン・ルノワール『ゲームの規則』(1939年)
フランスの小説や映画はそれなりに読んだり見てきたが、この映画の背景となる舞台設定がいまひとつわからなかった。王族がいまだ存在するイギリスとは異なり、さるパーティの出来事が中心になっているのだが、その主催をするロベールという人物が、貴族にあたるのか大ブルジョアであるのかいまひとつはっきりしなかったのである。データベースのシノプシスによると貴族らしいのだが、その妻に恋をしている若者アンドレが、彼女への無償の贈り物として大西洋の飛行機横断を成功させる。ジャン・ルノワール本人が演じるオクターヴは両人の知り合いらしくて、二人を会わせることを約束する。
飛行機で冒険をしたアンドレがどんな身分であるのか皆目見当がつかないし、オクターヴにいたっては自分にはお金がないと言い切っているので、どうして社交界には入れるのか、あるいは、日本でも地方ではいまだに江戸時代以来の藩主の家が続いているところがあって、その人柄によっては、特に社会的な身分などの関わりなくつきあいをすることもあるというから、あるいはそれに似たものであるのかもしれない。
徳の高い君は浮気心をなじるけれど恨み言はほどほどに恋の神は翼をもってあちらこちらを飛び移る心変わりは罪ですか。
ロベールにも愛人がおり、ロベールの妻もはじめはアンドレを拒否しているものの、やがて受けいれるかと思いきや、年来親しかったオクターヴにも心を動かすことにもなる。ロベールは誰が、それが妻であろうと、誰の愛人になろうかといったことには無関心であり、ただ巨大な自動演奏器の収集に心を奪われている。だが、愛人としてつきあい、恋愛遊戯にふけっているうちには寛容だが、いざ生涯の恋愛対象として深くコミットしようとするやいなや、ゲームの規則はそれを許さない。
あちらこちらに飛び移る恋の神に従っているうちはいいのだが、移動をやめたとたん、そこはすでに恋の神の宰領する場ではなくなり、ゲームから逸脱するのであって、それが単にロベールの意志に過ぎないのではないことは、この規則から逸脱した者たち、つまりアンドレと、妻に過度の嫉妬を示した森番とが、最後の銃撃の被害者と加害者に振り分けられることで厳然と再確認される。