アキ・カウリスマキの『ル・アーヴルの靴みがき』(2011年)は、カウリスマキには珍しく、

 

ル・アーヴルの靴みがき [DVD]

ル・アーヴルの靴みがき [DVD]

 

  アキ・カウリスマキの『ル・アーヴルの靴みがき』(2011年)は、カウリスマキには珍しく、不法移民というアクチュアルな話題を取り入れているが、逃げている黒人の少年を靴みがきの老人が町の友人たちとかくまって、引退したロック・ミュージシャンのチャリティー・コンサートで金をつくって、母親のいるロンドンに逃がしてやるというおとぎ話的な展開となり(そもそも靴みがきですからね)、世界の片隅での小さな幸福というカウリスマキ映画のテーマがカウリスマキの全作品のなかでも、最大限の夢のような幸福としてあらわれる。

 

 

アメリカ―非道の大陸

アメリカ―非道の大陸

 

  多和田葉子の『アメリカ』は副題が「非道の大陸」であり、没義道でバイオレンスな大陸ということかと思えば、主人公が自動車の免許をもっていないので、移動もおぼつかないアメリカが非道の大陸としてあらわれてくるという趣向で、趣向といえば、この小説の主人公は「あなた」と二人称で呼ばれ、最初は理由がわからなかったが、様々な人間と出会い、それぞれ親切で友好的なのだが、どこか薄い膜があり、直接的であることを感じさせない様子が、作者である私と小説の主人公である「あなた」との関係とうまく反映しあっている。