2020-01-01から1年間の記事一覧

断片蒐集 51 青木正児/石になった仙人は夢を見るか

酒中趣 (1984年) (筑摩叢書〈289〉) 作者:青木 正児 メディア: - 『神仙伝』のなかに、さる仙人が宮廷に招かれ、術を披露しろと命じられたところ、たちまち石と化した、というエピソードがあったと思う。幸田露伴の『新浦島』という小説は、それ以前にさま…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 56

... 「よき生」 "Good Life" 「人々とうまくやっていく」ことには、必然的に「よき生」という考えが含まれる。それについて簡潔に述べてみよう。 最大限の身体性。身体的経済的設備の必要性を踏みにじる限り、グロテスクな魂だけの存在になる。多くの心理学…

断片蒐集 50 青木正児/樽から樽へ帰るひもがな

酒中趣 (1984年) (筑摩叢書〈289〉) 作者:青木 正児 メディア: - 私はもう酒をのまなくなって10年くらい経つ。惜しむらくはこんな馬鹿馬鹿しい辞世の歌を残せなくなったこと。 大酒の会 江戸初期慶安の頃江戸に大酒戦が行はれた。一方の大将は地黄坊樽次…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 55

... 法廷弁論 Forensic 物品は広場で、市場で供給される。物品についての法律、議会の進行、交通法規、科学的な因果関係は複雑で洗練される交易(物質的および精神的な種類の)に従って発展する。原始的な社会では、法廷的なものは最小限であるか、完全に欠…

断片蒐集 49 マイケル・エイヤー/その実体は・・・

Locke (Arguments of the Philosophers) 作者:Ayers, Michael 発売日: 1993/12/02 メディア: ペーパーバック 伝統的な実体とは、馬は4本足で、たてがみとしっぽがあり、顔は細長く、乗ることができるなどといった五感から得たものの集大成であり、むしろロ…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 54

... 本質 Essence 行為は共同的なものか競争的なものかである。「本質」としてどちらかが選択される。例えば、婉曲な言い方をする者は、その行為は「神の栄光のために」なされたと言うかもしれない。暴露家は(ニーチェ流の考え方)本質として戦闘的要素を選…

断片蒐集 48 マイケル・エイヤー/概念ー経験論

Locke (Arguments of the Philosophers) 作者:Ayers, Michael 発売日: 1993/12/02 メディア: ペーパーバック ロックが経験論の始祖とされ、教義上はまったく異なるデカルトと対話(現実にというか思想的に)することができた理由がわかる。 経験論から概念—…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 53

... 効率性 Efficiency 正確な比率を危険にさらす。ある新しい朝食を発明するとき、身体の全体的なバランスにとって必要なある要素を取り去ることで、効率的に我々を喜ばすこともできよう。また、別の誰かが失われた要素を取り戻すべきであることを発見する…

断片蒐集 47 青木玉/江戸の女

幸田文の箪笥の引き出し (新潮文庫) 作者:青木 玉 メディア: 文庫 商家の下女が如来の化身だと見立てられたように、酒席の一場面を舞台の一場面として切り取る方の久保田万太郎もまた江戸的であり、遠い江戸の余香が立ち込めるようなエピソードである。 幸田…

頼みになる拒絶をもとに人間は邂逅できるかーー椎名麟三『邂逅』(昭和27年)

邂逅 (1976年) (旺文社文庫) 作者:椎名 麟三 メディア: 文庫 椎名麟三に関しては「深夜の酒宴」と「重き流れのなかに」その他初期の短編を数十年前に文庫で読み、教文館からでているキリスト教に関するエッセイ集の端本を読んだことがあるだけで、そのときに…

断片蒐集 46 青木玉/生地とテクノロジー

幸田文の箪笥の引き出し (新潮文庫) 作者:青木 玉 メディア: 文庫 着物というのは最終的には生地を身に纏うことに収斂される。ほつれれば継ぎがあてられる。いま我々がまとっているのは手仕事ではなく、テクノロジーであり、そのため継ぎが決定的に異質なも…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 52

... 自分の世界を「稼ぎだす」 安逸をむさぼる暇などない。継承されたものはすべて新たに稼ぎださねばならない(さもなければ、疎外と堕落が始まる)。想像力なしに科学の教えを復唱する低能は稼ぎだしていないものを得ようとしているのであり、結果は落胆に…

断片蒐集 45 エイヤー/まがいものの世界のなかで

言語・真理・論理 作者:A.J.エイヤー 発売日: 1955/02/25 メディア: 単行本 こうした論理実証主義的な考え方には現在ではほとんど興味はないが、あくまで原理、原則を見出そうという姿勢には敬意を感じる。 意味のある文章 我々は、次のような場合、そしてた…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 51

... 手がかり Cue もしある男を英雄、或いはろくでなしと呼び、言葉通りを意味するなら、解釈によってその言葉の「道徳的重み」を探る必要はない。言葉の個人的な使用が公的な意味と対応しているから、姿勢は明らかである。他方、一見中立的でありながら、実…

断片蒐集 44 江藤淳/リア王と仙人

決定版 夏目漱石 (新潮文庫) 作者:淳, 江藤 発売日: 1979/07/27 メディア: 文庫 「愛」や「倫理」は虚構であるかもしれないが、少なくとも西欧においては、言葉と同じく意識を持つ人間にとって切り離すことのできないものとしてある。俗世を離れる、つまり言…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 50

... 支配 Control 悪い状況を支配するには、悪い要素を根絶するか、それをどこかに誘導するかである。廃絶対「避雷針の原理」であり、雷を追放することによってではなく、害の及ばない方へ誘導することによって雷から身を守ろうとする。素朴な自由主義の擁護…

断片蒐集 43 江藤淳/愚鈍であること

決定版 夏目漱石 (新潮文庫) 作者:淳, 江藤 発売日: 1979/07/27 メディア: 文庫 小器用さより愚鈍さが貴重だ。 文学が判らぬという才能 漱石 彼らは[藤村や花袋]、この狂人めいた文部省留学生にくらべてはるかに西欧文学の魅力に忠実だったので--即ち、日…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 49

... 交感 Communion 社会において、常に働いているのは、共同作業のネットワークがやりとりされるシンボルのネットワークを伴う仕組みである。「交感」は協同的で象徴的なネットワークにおいて、共通の利害のもと人々が相互依存することを示している。芸術家…

断片蒐集 42 アウエルバッハ/あまりに人間的な

ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈下〉 (ちくま学芸文庫) 作者:エーリッヒ アウエルバッハ メディア: 文庫 歴史認識と自己認識の深さが直結することがエッセイの発明だった。 自己認識の企図 モンテーニュ 任意の一つである自分の生活をモンテー…

ディオニュソス的鷗外ーー中野重治『鷗外その側面』

鴎外―その側面 (ちくま学芸文庫) 作者:中野 重治 メディア: 文庫 第二次世界大戦のあいだから、ほぼ20年にわたり、機会に応じ断続的に書き継がれたものであるために、首尾一貫した論考ではない。晩年の3編の史伝(厳密にいえば、『渋江抽斎』と『北条霞亭…

断片蒐集 41 アウエルバッハ/エッセイと随筆

ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈下〉 (ちくま学芸文庫) 作者:エーリッヒ アウエルバッハ メディア: 文庫 石川淳は、随筆の本質を、広く本を渉猟し、そのアンソロジーをつくることだとした。大田南畝の随筆などはその見事な実例である。エッセイ…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 48

... 結合群 Clusters どの主題の結合群がどの主題の結合群と結びつくかに注意することで、意味作用が理解される(aという主題に集中するときいつも詩人はb、c、dというイメージを導入する)。その素晴らしい例は、キャロライン・スパージョンによるシェ…

ベアトリーチェの喩えーー「女の論理」(花田清輝『復興期の精神』所収)

復興期の精神 (講談社文芸文庫) 作者:花田清輝 発売日: 2014/04/04 メディア: Kindle版 神曲【完全版】 作者:ダンテ 発売日: 2010/08/26 メディア: 単行本 ダンテが同い年のベアトリーチェにはじめて出会ったのは9歳のとき、春の祭りにおいてであった。一眼…

断片蒐集 40 アウエルバッハ/活人絵とドラマ

ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈上〉 (ちくま学芸文庫) 作者:エーリッヒ アウエルバッハ メディア: 文庫 ダンテは『神曲』において、ある種の活人絵の美術館か動物園をへめぐっているようなものであり、ベアトリーチェが登場するときに、初めて…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 47

... 決疑論的拡張 Casuistic Stretching 決疑論的拡張とは、理論的には古い原理に忠誠を誓っていながら、新しい原理を導入することである。教会が表向きは投資を禁じた法体系のもとにありながら、投資の拡大を許していることは既に見た。法律家は、決疑論的…

断片蒐集 39 アウエルバッハ/剣と恋

ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈上〉 (ちくま学芸文庫) 作者:エーリッヒ アウエルバッハ メディア: 文庫 最近のアニメには騎士が多く登場するが、作者が意識的なのかはともかく、伝統に則っている。 宮廷世界を縁取りする規範 宮廷世界において…

断片蒐集 38 アウエルバッハ/小説から遠く離れて

ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈上〉 (ちくま学芸文庫) 作者:エーリッヒ アウエルバッハ メディア: 文庫 『ミメーシス』はホメーロスと聖書の比較から始まっているが、小説にはまだ遠い。この本は歴史や時間を見出すまでの文学論でもある。 予…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 46

... 想像的なものの官僚化 Bureaucratization of the Imaginative この定式は、基本的な歴史の過程を「不調和による遠近法」で名づけたものである。恐らく、それは死にゆく過程を名づけたに過ぎない。「官僚化」Bureaucratizationというのは扱いにくい言葉で…

断片蒐集 37 アウエルバッハ/堰き止められた源流

ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈上〉 (ちくま学芸文庫) 作者:エーリッヒ アウエルバッハ メディア: 文庫 ホメーロス的人物は存在できなくなった。バカになってしまう。『ドラゴンボール』の孫悟空など無垢で最強の人物にホメーロス的残滓がある…

断片蒐集 37 アウエルバッハ/堰き止められた源流

ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈上〉 (ちくま学芸文庫) 作者:エーリッヒ アウエルバッハ メディア: 文庫 ホメーロス的人物は存在できなくなった。バカになってしまう。『ドラゴンボール』の孫悟空など無垢で最強の人物にホメーロス的残滓がある…