2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

一言一話 2

普賢 佳人 (講談社文芸文庫) 作者:石川淳 講談社 Amazon ミサは立ちすくんだままおどろくひまさへなくわたしの腕の中に抱き緊められてしまつた。そのときミサはちよつと瞼をそよがせたやうに見えたが、それはわたしのふれえたかぎりでは諦めとか愁ひとかいふ…

ブラッドリー『仮象と実在』 94

. 第十六章 誤り ... (よき反論は単に説明できないなにかではなく、矛盾する何ものかに基づいてなされねばならない) 我々は我々が受け入れざるを得ない絶対の輪郭を描き、思考の一般的な道筋を指摘してきた。次には、一連の手強い反論に向かわねばならない。…

一言一話 1

バルザック全集〈第4巻〉田舎医者・ピエレット (1961年) 東京創元社 Amazon たぶん完全な幸福というものは、われわれ人類の存続など許さない怪物かもしれませんね。 バルザック『田舎医者』新庄嘉章・平岡篤頼訳 ここで「幸福」といわれているのは、魂と魂と…

ブラッドリー『仮象と実在』 93

... (我々の言う絶対は物自体ではない。) こうした絶対が物自体なのではないかという反論については、反論者が自分でなにを言っているのか理解しているのかどうか疑わざるを得ない。すべてを抱握する全体がその名に値するものであるかどうか、私の推測を越…

ブラッドリー『仮象と実在』 92

... (我々の言う絶対は物自体ではない。) こうした絶対が物自体なのではないかという反論については、反論者が自分でなにを言っているのか理解しているのかどうか疑わざるを得ない。すべてを抱握する全体がその名に値するものであるかどうか、私の推測を越…

ブラッドリー『仮象と実在』 91

... (相関的な形式はそれを越えた完成形を含んでいる。) 相関的な形式は思考がよって立ち、発展するための妥協である。全体性を破壊する差異を結びつけようとする試みである。(1)潜在的な同一性によって共存を強いられる差異、多数性と統一との妥協――そ…

ブラッドリー『仮象と実在』 90

... (他者は思考自体が望み、含むものであるなら存在すると言える。その事例。) 実際の判断を取上げ、他者を見いだすという視点でその主語を調べてみよう。ここにおいて、我々はすぐさま問題の種に出くわす。常に述語よりも現前する主語により多くの内容が…

ブラッドリー『仮象と実在』 89

... (思考の他者が存在すると言えるだろうか。) 読者は、単なる思考があらゆるものを含むとは誰も信じないことには同意してくれるだろう。困難なのはこの主張を<維持し続ける>ことにある。哲学において我々が考えねばならないのが、どうやって自己矛盾な…

ブラッドリー『仮象と実在』 88

... (なぜ思考は滅びるべきではないのか。) 第一に、我々の完成は物自体にあり、思考に本質的に知り得ないものを知らせるものであると主張されるかもしれない。しかし、この説は我々の全体が感覚経験以外のなにものでもないことを忘れている。そして、我々…

ブラッドリー『仮象と実在』 87

... (思考が二元論を超越することに成功するなら、思考としては滅びる。) 単なる否定では十分満足がいくと言えないことは私も認める。そこで、思考に固有の二元論が解消されたと仮定してみよう。存在はもはや真理と異なるものではないと仮定し、それがどう…

豊島圭介『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』(2020年)

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 三島由紀夫 Amazon 三島由紀夫は、ほぼその全作品を10代から20代にかけて読んだ。ほぼというのは、最新版の全集ではなく、その一つ前の黒い箱に入った全集をそれこそ最初から最後まで通読したからである。しかし、…

ブラッドリー『仮象と実在』 86

... (思考は二元論的であり、主語と述語は異なる。) 実在は、何であれ、存在と性格という二つの側面をもち、思考は常にこの区別のなかで働かねばならないことを我々は見てきた。思考は、その実際の過程と帰結において、「そのもの」と「何」との二元論を越…

長谷部安春『流血の抗争」(1971年)

流血の抗争 [DVD] 宍戸錠 Amazon 宍戸錠はともかく、藤竜也と沖雅也がヤクザ映画にでているのは珍しい。梶芽衣子もでている。 東映の実録ヤクザものを意識したのだと思うが、とはいっても、『仁義なき戦い』よりは前の映画である。無国籍映画の伝統がある日…

ブラッドリー『仮象と実在』 85

... (思考と実在との関係に関する難問。) ここで私は既に触れた誤解について述べたいと思うが、それについて考えることは我々が先に進む助けとなるだろう。(1) *1 実在が思考以上のものだとしても、少なくとも、思考そのものがそうだとは言えないという…

ブラッドリー『仮象と実在』 84

... (真理は有限なものの観念に基づいている。) この点についてはすぐ後で扱うことにするが、まず最初に、最も重要な点に注意を引いておこう。観念は事実の外側にあるものであり、事実に外からもたらされたなにか、事実にのせられたある種の層だという考え…