俳句

よろずの紙反故 37

西海でジンギスカンは溺れかけ 悪縁にお百度参りの血豆かな 左郷には大むじなのいる大津史書 与太郎の才おめでたき去年の春 才学を文字喰う虫に奪われて

よろずの紙反故 36

木賊にて左右の敵を撫で終わり 海坊主再縁先は案山子かな 猥文書採録したる近思録 この年の塞翁が馬曲乗りし 白砂州で斎戒をする年男

よろずの紙反故 35

終末の妻に分けたる夏空よ 蜘蛛の眼が虚空に溶ける差異の差異 ぼんぼりをジッポでつける年の暮れ 吐息でね財を受けたる葵君 最強の敵を愛するモグラかな

よろずの紙反故 34

金襴にサーベル帯びた小町たち 和泉式部は菜には胡瓜一本を 川岸の塞にこもりてぼろんじを プリズムで分解される犀の角 歯の穴に詰め物したる英霊の木

よろずの紙反故 33

愛欲の海にもまれる海軍よ 鉄鎖操る女の上腕部 開化には多くの豆を赤飯に 仏らが車座になる橋の上 見る前に透体離脱で魔の森にさあ

よろずの紙反故 32

サウス式海岸沿いの洗面所 ラマ僧が開基する日の短さよ 改機には夏の日永の縁先で 階段を積み残したる芝公園 目にしみる暁のなか皆勤し

よろずの紙反故 31

開運のお守りにする蟻地獄 改易に白装束でさらし巻き 凱歌あげ揺れるガラスの覆いかな 遠眼鏡開港となる三浦湾 改革で生き仏となる高僧よ

よろずの紙反故 30

素粒子の解を求めてデパートに スコップで海を埋めたる工作者 心身のかゆさに耐えて調律し 巻き尺の巻きのあまりが害となり 我意通し余った糸が針となり

よろずの紙反故 29

秋の日の薄のなかで弱まる蚊 はんちくが鹿と蝶とを取り違え 櫂の音が骨絶つ根となる島世界 八階を降りたる君の赤い靴 十戒を金時で図する白椿

一言一話 133

食いしん坊〈2〉 (朝日文庫) 作者:小島 政二郎 朝日新聞社 Amazon 古い文化出版局の本で私は読んでいるので、下の文章がこの本にでているかどうかはわかりません。ちなみに文化出版局本で言うと、「続1」にあたります。 万太郎の勘 しかし、久保田さんの勘…

よろずの紙反故 28

揚げ屋では杉村春子が居眠りし 夜の闇なまぐさ坊主があおだ瓜 毘沙門がお守りにする阿古屋貝 朝まだき未知の桜が道となり 車上にてラベンダーの香を嗅ぎにけり

よろずの紙反故 27

虫の音がフラスコ満たす曙や 揚巻の身を包みたるホイルかな 明け六つに死に装束の銀の医師 揚げ餅を酒のつまみの渡世人 揚げものは賽の目にしてジグソーに

よろずの紙反故 26

世界地図ピンで留めたる揚羽蝶 明け番が尻を拭きたる製図室 あけび割れあけび色したあけびの実 カリウムの揚げびさしには虎の斑が 上げ蓋に満艦飾の混濁を

よろずの紙反故 25

京マチ子柳眉を逆立てあげつらい 白金の深い鍋には揚げ豆腐 北欧の明けの明星去年の雪 サラダには揚場人足かき集め 知覚の扉開け放すのは丑三つか

よろずの紙反故 24

仏像を上げ下げしたる京の春 上潮にカモメが落ちる茅ヶ崎へ 揚げ代にのしをつけたる王の侍者 カフェロマン揚げ出し豆腐の蜜の味 テルミンが忍者屋敷を開け閉てし

よろずの紙反故 23

朱を奪うものさえいない湿潤地 来年の揚げ足をとるミカエルよ 音階のあげくのはてがアボカドに 明け方に雲隠れする管財人 宝玉を磨き続ける夜の明け

よろずの紙反故 22

枝折戸でハイスミスにたつ悪名 象限儀ナイトばかりで攻めあぐね オプションであぐらで座る風俗嬢 悪霊や下仁田ネギのぬたの色 女郎蜘蛛あくる朝には空を行き

よろずの紙反故 21

あやとりにあぐねて眠る萩の月 二階から神棚をつるあくびかな 悪筆の恋文を読む長月夜 紫のボトムズをはく悪魔かな 宣教師あくまで円を描き続け

よろずの紙反故 20

あくたれる君が夢みる羊水の頃 両腕を袖に繰り込む悪女かな かすみにはあくどいだけが身の誇り お湯で割る阿久根焼酎奈落の夜 悪念で救世済民如来かな

よろずの紙反故 19

悪銭で椿をつくる女工かな 悪僧がステンドグラスに浄土見て 積分が描くグラフに塵芥 悪態を狸にわめく猫女 シンデレラ悪党夢み舟に乗り

よろずの紙反故 18

護符を貼り悪鬼に向かう富三郎 悪口をおみくじに書き枝結び 与平次はたすきを掛けて悪事為し 外苑の悪所に毎夜通いけり あくせくす逆行世界のかくれんぼ

よろずの紙反故 17

明晩のあきれ果てたる君の尻 骨を煮る浮きでる灰汁の曼荼羅よ 純粋な悪を求めて庭園へ キスしても残るは君の悪意だけ トパーズの青さはエマの悪縁か

よろずの紙反故 16

リクガメの顎のなかのミントの葉 去年の日にお会いするのも飽きはてて 奥州の空き家に居つくオドラデグ 猥本を万葉仮名に書きかえて エネマグラ諦めに似たうれしさよ

よろずの紙反故 15

名月やあきないひとの欠けた指 刃傷商人宿に立てこもり 後架先手水鉢には秋の風 秋草を塩味だけで粥にして オランダの飾り窓での秋田蕗

よろずの紙反故 14

東邦の上がり座敷に象二頭 播州の闇夜に潜むあかりとり 八百善のあがり場に立つやせ蛙 観覧車死にあがりたる賽の目よ 秋の夜や口を開けたる公方がた

よろずの紙反故 13

ペヨーテを匙でほじくる赤ら顔 身の恥をあからさまにする大魔神 西方の浄土の部屋のあかりかな 天和であがってみても雨夜かな 上がり口手招きをするますみかな

一言一話 117

『桑原武夫全集3 伝統と近代化』 ..芭蕉について ...芭蕉の誠と西欧文学のサンセリテの相違 ところが綿密な研究をつづけた学者のうちにも、同じように芭蕉を西洋風の人生詩人に見たてようとする傾向がある。そして「誠をせむる」などという言葉に力点がおか…

よろずの紙反故 12

ひろがねの赤み渡った荒野かな ビニールとガムテープだけを崇めたて 赤ん坊がうごめく冬の竹林 青かびを白さで覆うあかんべい 城郭を針で越えいる赤目かな

よろずの紙反故 11

赤星に千惠藏の顔見つけたり 本郷で赤本の束を買いにけり 赤間石の隙間に沿った墓参り イレーヌの赤みを別ける整体師 赤味噌で息継ぎをする画廊主

よろずの紙反故 10

あかぬけた複雑な彼石を蹴り ローマにて風呂を賑わすあかねぶり 縁日に赤鼻がする試し斬り 二階からまち針落とす日永かな 贖いは楽土のなかの辺境地