小説

一言一話 16

文学と悪 (ちくま学芸文庫) 作者:ジョルジュ バタイユ 筑摩書房 Amazon サド 性的な無秩序 性的な無秩序とは、限界づけられているかぎり自分にも他人にも統一あるものとして確立されているわたしたちの相貌を、解体するものにほかならない(その無秩序は、す…

一言一話 15

文学と悪 (ちくま学芸文庫) 作者:ジョルジュ バタイユ 筑摩書房 Amazon サド 自然 サドの言うことを<文字どおり>に真にうけることほど無駄なことはない。・・・概して彼は、神のかわりに、<永久運動の状態にある自然>を設定しているのである。しかも彼は、…

一言一話 11

空と夢 〈新装版〉: 運動の想像力にかんする試論 (叢書・ウニベルシタス) 作者:ガストン バシュラール 法政大学出版局 Amazon 実質的感動 ポー <<実質的感動>>に対するエドガー・ポーの詩法の忠実さは徹底したものであって、それはどんな短い短篇にも現…

一円一話 10

空と夢 〈新装版〉: 運動の想像力にかんする試論 (叢書・ウニベルシタス) 作者:ガストン バシュラール 法政大学出版局 Amazon ポー 夢想の原始性 夢とイメージ 語り手は読者を恐ろしい場景の前においたのではなく、恐怖状況のなかにおいたのであり、彼は根源…

一言一話 9

空と夢 〈新装版〉: 運動の想像力にかんする試論 (叢書・ウニベルシタス) 作者:ガストン バシュラール 法政大学出版局 Amazon ポー 失神 ポーは失神を、いわばわれわれの存在内部における墜落として、まず肉体的なものの意識が次々と消え、ついで道徳的なも…

一言一話 8

空と夢 〈新装版〉: 運動の想像力にかんする試論 (叢書・ウニベルシタス) 作者:ガストン バシュラール 法政大学出版局 Amazon ポー 力動的想像力の優位 彼は客観的なイメージのフィルムをくり広げる前に、読者のたましいのなかに、この想像的墜落を導入する…

一言一話 2

普賢 佳人 (講談社文芸文庫) 作者:石川淳 講談社 Amazon ミサは立ちすくんだままおどろくひまさへなくわたしの腕の中に抱き緊められてしまつた。そのときミサはちよつと瞼をそよがせたやうに見えたが、それはわたしのふれえたかぎりでは諦めとか愁ひとかいふ…

一言一話 1

バルザック全集〈第4巻〉田舎医者・ピエレット (1961年) 東京創元社 Amazon たぶん完全な幸福というものは、われわれ人類の存続など許さない怪物かもしれませんね。 バルザック『田舎医者』新庄嘉章・平岡篤頼訳 ここで「幸福」といわれているのは、魂と魂と…

五大洋発掘記 2 ジャン・ロラン『仮面物語集』

仮面物語集 (1984年) (フランス世紀末文学叢書〈7〉) 作者:ジャン・ロラン メディア: - 小浜俊郎訳、国書刊行会、「フランス世紀末文学叢書」の第七巻。 1984年。 ジャン・ロランは1855年ノルマンディーの港フェカンに生まれ、1906年に51歳で…

挫折と充足のアンチノミーーーバルザック「あら皮」(1831年)

あら皮 〔欲望の哲学〕 (バルザック「人間喜劇」セレクション(全13巻・別巻二) 10) 作者:バルザック,Balzac 発売日: 2000/03/30 メディア: 単行本 周囲のものに「なんともいえない恐ろしさ」をおぼえさせた青年、ラファエルが賭博場に入ってきて、一枚の金…

頼みになる拒絶をもとに人間は邂逅できるかーー椎名麟三『邂逅』(昭和27年)

邂逅 (1976年) (旺文社文庫) 作者:椎名 麟三 メディア: 文庫 椎名麟三に関しては「深夜の酒宴」と「重き流れのなかに」その他初期の短編を数十年前に文庫で読み、教文館からでているキリスト教に関するエッセイ集の端本を読んだことがあるだけで、そのときに…

裸の営為ーー幸田露伴『ウッチャリ拾ひ』

幸田露伴 (日本幻想文学集成) 作者:幸田 露伴 発売日: 1991/10/01 メディア: ハードカバー 埋め立てが大規模におこなわれるようになったのは、江戸時代に入ってからで、日比谷の辺りまで入り江が食い込んでいた。現在の中央区、江東区、港区の一部は江戸時代…

白銀の図書館 19 モダニスムの空ーー安岡章太郎「ガラスの靴」(昭和26年)

ガラスの靴・悪い仲間 (講談社文芸文庫) 作者:安岡章太郎 発売日: 2014/03/14 メディア: Kindle版 発表された年は私が生まれた年の10年以上前であり、そもそも大学生になるまでは千葉や神奈川の郊外に住んでいて、東京にでることなど滅多になかったので、…

白銀の図書館 18 小説の唄い調子ーー野間宏『肉体は濡れて』(1947年)

野間宏作品集〈1〉暗い絵 崩解感覚 作者:野間 宏 発売日: 1987/11/06 メディア: 単行本 野間宏はほとんど無縁に過ごした作家のひとりで、大学生のころに『暗い絵』(1946年)を読んだくらいのもので、冒頭からレンブラントの絵画の描写が続くことは覚え…

白銀の図書館 11 プラトン的荒野〜河上徹太郎について Ⅲ

流れる (新潮文庫) 作者:文, 幸田 発売日: 1957/12/27 メディア: 文庫 女主人は「演芸会」のために毎日清元の練習をしている。その会とは「みんなが力を協せて、わが土地のためによそ土地に負けない名舞台・名演技をしようといふのではなくて、たがひに意地…

電気石板蚤の市 3 田中小実昌『オチョロ船の港』(1979年)

オチョロ船の港 (1979年) 作者:田中 小実昌 メディア: - 7編の短編からなっている。泰流社というあまり聞かない出版社からでている。バスに乗るのと哲学書を読むのが好きな作家。同名の短編の冒頭のあたり。 道路の表面がしろいのは、瀬戸内の花崗岩系の土…

電気石板日録 5 袖付けに涙をこぼし見る月はアリスが泳ぐ豊饒の海

ベートーヴェン:交響曲全集・ヴァイオリン協奏曲(完全生産限定盤) アーティスト:ブルーノ・ワルター 発売日: 2019/11/27 メディア: CD 吉野葛・蘆刈 (岩波文庫 緑 55-3) 作者:谷崎 潤一郎 発売日: 1986/06/01 メディア: 文庫 イン・ヴォーグ:ザ・エディター…

白銀の図書館 4 朝吹真理子『きことわ』(2011年)

きことわ (新潮文庫) 作者:朝吹 真理子 発売日: 2013/07/27 メディア: 文庫 野坂昭如コレクション〈2〉骨餓身峠死人葛 作者:野坂 昭如 発売日: 2000/11/01 メディア: 単行本 退嬰的であることにおいては人後に落ちない自信をもつ私ではあるが、実に久しぶり…

白銀の図書館 3 アルフレッド・ジャリ『フォーストロール博士言行録』(1898年)

フォーストロール博士言行録 (1985年) (フランス世紀末文学叢書〈6〉) 作者:アルフレッド・ジャリ メディア: - 「フランス世紀末文学叢書」は国書刊行会から1980年代から全15巻で刊行された。しかし、いわゆる世紀末のデカダンス小説といわれて連想す…

電気石板日録 1 ジェイムズ・エルロイ『ホワイト・ジャズ』/絓秀実『吉本隆明の時代』

新装版 ホワイト・ジャズ (文春文庫) 作者:ジェイムズ エルロイ 発売日: 2014/06/10 メディア: 文庫 フリー・ジャズ(+1) アーティスト:オーネット・コールマン 発売日: 1990/12/21 メディア: CD 吉本隆明の時代 作者:絓 秀実 発売日: 2008/11/29 メディア: …

白銀の図書館 2 夏目漱石『草枕』(1906年)

夢十夜・草枕 (集英社文庫) 作者:夏目 漱石 発売日: 1992/12/15 メディア: 文庫 『草枕』の冒頭、「山道を登りながら、かう考へた。」から3~4段落は、いまでは大概忘れてしまったが、暗唱できた。教科書のことなど皆目覚えていないので、学校で習ったもの…

白銀の図書館 1 トーマス・マン『ブデンブローグ家の人々』(1901年)

ブッデンブローク家の人びと〈上〉 (岩波文庫) 作者:トーマス マン 発売日: 1969/09/16 メディア: 文庫 ブッデンブローク家の人びと〈中〉 (岩波文庫) 作者:トーマス マン 発売日: 1969/10/16 メディア: 文庫 ブッデンブローク家の人びと 下 (岩波文庫 赤 43…

ムーミン谷のパスの精度--トーベ・ヤンソン『たのしいムーミン一家』

新装版 ムーミン谷の仲間たち (講談社文庫) 作者:トーベ・ヤンソン 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2011/07/15 メディア: 文庫 ムーミン・コミックス(全14巻セット) 作者:トーベ・ヤンソン,ラルス・ヤンソン 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2011/01/01…

幸田露伴を展開する 5

5 明治二十八年に書かれた小説『新浦島』は、露伴の小説がもつジレンマが赴くところを象徴的にあらわしている。浦島太郎の一族の末裔である次郎は、揃って死んだ両親の遺体が、一片の骨を残して跡形もなく消え去っているのに驚く。平凡な漁師夫婦と思ってい…

肉声と現代の文学--保坂和志『カンバセイション・ピース』

カンバセイション・ピース (河出文庫) 作者:保坂 和志 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2015/12/05 メディア: 文庫 合本 考えるヒント(1)~(4)【文春e-Books】 作者:小林秀雄 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2015/03/27 メディア: Kindle版…

幸田露伴を展開する 4

風流仏・一口剣 (岩波文庫) 作者:幸田 露伴 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1988 メディア: 文庫 4 初期の露伴には、確かに仏教的な要素が色濃い。しかし、露伴が求めたものは、仏教が与えてくれるように思えるある境地である。それは、ある種の悟りか…

固有世界の戦い--荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』、ボルヘス『記憶の人、フネス』

ジョジョの奇妙な冒険 第6部(40~50巻)セット (集英社文庫(コミック版)) 作者:荒木 飛呂彦 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2009/07/17 メディア: 文庫 伝奇集 (岩波文庫) 作者:J.L. ボルヘス 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1993/11/16 メディア: 文庫 …

幸田露伴を展開する 3

3 江戸時代の戯作は、主に遊里を中心とした閉ざされた場で、限られた人間関係が組合される。そうした枠組みと決まりきったパターンをなくしたときに、どう「世の人情と風俗」を写し取ることができるかが逍遥の問題だった。二葉亭四迷も、森鷗外も、夏目漱石も…

言葉の軽重と固有名--イタロ・カルヴィーノ『カルヴィーノの文学講義』

カルヴィーノの文学講義―新たな千年紀のための六つのメモ 作者:イタロ カルヴィーノ 出版社/メーカー: 朝日新聞社 発売日: 1999/04 メディア: 単行本 イタロ・カルヴィーノが言うには(『カルヴィーノの文学講義』)、文学の歴史は、言葉を軽くしようとする…

幸田露伴を展開する 2

小説神髄 (岩波文庫) 作者:坪内 逍遥 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2010/06/16 メディア: 文庫 2 坪内逍遙宛ての書簡の内容は小説のことに関わる。 小説家としての露伴の活動は二つの時期に分けられる。『露団々』から『天うつ浪』が中断に終わるまで…