野口久光『素晴らしきかな映画』

 

素晴らしきかな映画

素晴らしきかな映画

 

 

 野口久光は1909年に生まれ、1994年に死んだ。
 
 多面的な側面をもった人で、まず映画ポスターを1000点以上も書いた。トリュフォーの『大人は判ってくれない』のポスターはトリュフォー自身のお気に入りで、来日したときに原画をもらい、自分の作品にだし、事務所にもずっと飾ってあったという。
 
 それに『レコード芸術』に毎月ジャズのレコード評を書くジャズ評論家でもあった。いまではその仕事は音楽之友社から三冊になって出版されているが、最近の私にはとても重宝している。
 
 淀川長治の盟友でもあり、映画についての原稿も多く書いた。この本は、JR東日本が発行していたPR誌『トランヴェール』で、1987年の創刊号から三年にわたって連載されたものである。「はじめに」と「あとがき」を除いた内容は次の通り。
 
1.スクリーンの女神たち
 
2.スクリーンのヒーローたち
 
3.輝くミュージカル・スター
 
4.コメディのキングたち
 スタン・ローレルとオリヴァー・ハーディ
 
5.サイレント映画の大スターたち
 メリー・ピックフォード
 
6.素晴らしい監督たち
 D・W・グリフィス
 先駆的冒険者たち
 
 VHSのビデオが普及しはじめたころの仕事であるから、もちろんそれを参照しているわけではなくて、私には想像もつかないような恐ろしいほどの元手がかかっているに違いない。
 
 蓮実重彦の悪影響で、作家主義的ではない、つまりは映画について「批評的」ではない本を読まないできてしまった。
 
 蓮実重彦自体はある時期から大嫌いになり、それからかなり時間もたっていまでは嫌いではないというところなのだが、それはともかく、淀川長治を別格として蓮実以前の世代のいわゆる「作家主義」の洗礼を受けていない映画評などは、読むに値しないと考えるなどは、まさしく悪影響以外のなにものでもなく、悪影響などは受ける方がいけない。
 
 「コメディのキングたち」でまっさきにローレル=ハーディをあげているのもうれしいところで、なぜかこの二人組は日本ではあまり人気がない。他のコメディアンの映画と違い、「現実社会、庶民社会、様々な職業人にまつわる風刺画的な作品が大部分であり、そこに人間心理の分析、その誇張した視覚的表現の面白さがつねに見せ場となっている。その点日本の一流の落語家、志ん生文楽が好んで語った名作落語の味わいを連想させる。」と評しているところなど、うれしくなった。
 
 また、アステアとジンジャーの映画は大好きだが、足下にも及ばないと思ったのは、「アステアのデュエット・ベスト5」である。
 
1."Night And Day"
 『コンチネンタル』
 『有頂天時代』
3."Pick Yourself Up"
 『有頂天時代』
4."Let's Fase The Music And Dance"
 『艦隊を追って』
5."Dancing in Yhe Dark"
 (シド・チャリッスと踊る)
 『バンド・ワゴン』
 
 それから「ソロ・ダンス」「ヴォーカル」が続くのだが、まいりました、脱帽。