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SFというと、物理学やそれに関係した工業的テクノロジーから想像力をはばたかせるものが多く、パオロ・バチガルピの『ねじまき少女』ように、たとえば、VR的な光学機器とAIの発展の末に玩弄用のある種のセクサロイドが存在する未来ではなく、遺伝子工学によって新たな人種が生み出され、カロリーが取引され、疫病と汚染されない種子が必要とされるような世界像はこれまでに想像したことがないもので、ウィリアム・ギブソンによって電脳空間という世界が提示されたときと似た感覚を持つ。
アルフォンソ・キュアロンの 『ROMA/ローマ』(2018年)無音の状態のなか広いタイルに水が広がっていく最初のシーンから印象的で、1970年代のメキシコでの召使いを雇えるくらいの中流の上くらいか、その一家の日常を描いていて、夫婦仲は最後には離婚になり、召使いの女性は身勝手な男に妊娠させられたあげく捨てられてしまうのだが、それもまた日常的にあり得る事件として淡々と描かれており、非常によくできた作品なのだが、70年代のことがモノクロで描かれることの意味が最後までよくわからず、ことさらノスタルジーにふけっているようで、才能において格段の差がある人が『三丁目の夕日』を撮っているかのようにみえる。
それにひきかえ、イニャリトゥの『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014年)もまた、ほぼ映画の大部分をワンカットで撮ることの必然性があるのかどうかはおぼつかないが、それが非常にスリリングな体験であることは確かで、かつてはヒーローもので活躍した俳優が自分の存在意義を確かめるために、ほとんど自分の財産を持ち出して、レイモンド・カーヴァーを原作とする芝居をブロードウェーで上演する初日前後の数日を描いたこぢんまりした話なのだが、どうやって撮ったのか想像もできない延々と続く画面に対応するように現実のなかにファンタジーが紛れ込み、確かにそこには予期せぬ奇跡が待っているかもしれないという期待を抱かせるには十分なものである。