胸のつかえーーダルデンヌ兄弟『イゴールの約束』(1996年)

 

イゴールの約束 [DVD]

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脚本、ダルデンヌ兄弟、レオン・ミショー、アルフォンソ・パドロ。撮影、あらん・まるクーン。音楽、ジャン=マリー・ビリー、デニ・M・プンガ。

 

 ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌイゴールの約束』(1996年)、通称ダルデンヌ兄弟の劇映画第1作目。

 

 少年であるイゴールは自動車修理工の見習いをして手に職をつけようとしているが、不法移民を受けいれ、仕事を斡旋している父親にひっきりなしに用事を言いつけられ、修理工の仕事をあきらめざるを得ない現状にある。父親は基本的には息子思いだが、自己中心的で、息子の立場に立って将来のことを考えることはできず、ときには暴力を振るうこともある。

 

 あるとき、警察の見回りがあり、急いで現場を離れようとするとき、二階で作業をしていた労働者が足を踏み外して、地面にたたきつけられてしまう。最初に気がついたのはイゴールで、まだかすかに意識のあった彼は妻の面倒を頼むと言いおいて、息を引き取ってしまう。最近、アフリカから妻を呼び寄せたところだったのだ。

 

 イゴールは救急車を呼ぼうとするが、父親は面倒に巻き込まれることを恐れて、イゴールを手伝わせて、近くの場所に男を埋めてしまう。イゴールにとって男が死ぬ前に言ったことが約束として我が身を呪縛することになる。そして、その約束を果たすために、様々な無理をせざるを得なくなる。

 

 胸のつかえ、という言い回しがぴったりの状況を、常にダルデンヌ兄弟は現出する。イゴールは死んだ男の妻におそらくは恋をしており、彼女の夫の死に責任を、正当に葬らなかったことに対して罪悪感を、寄るべのない妻を庇護しなければならないある種の父性を感じているのだが、これらの情感は未分化なもので、個別なものとして処理できないので、塊としてのど元にせり上がって、それを吐きだそうと決意することによって、それによってどんな結果が生じるかはわからないが、胸のつかえからやっと解放されることになる。