断片蒐集 5 アドルノ

 

美の理論 新装版

美の理論 新装版

 

 

芸術の残酷さ

 

醜は芸術に敵対的なものであるが、芸術の概念を拡大して理想の概念を乗りこえさせる芸術の動因として、芸術に敵対する。芸術における醜は芸術の理想に奉仕するものにほかならない。だが醜は、つまり芸術における残酷さはたんなる描写ではない。芸術そのものの身振りにはニーチェも承知していたように、残酷なところがある。残酷さは形式を通じて想像力となる。つまり生あるものから何かを切り取り、言語の肉体、響き、目にすることができる経験から何かを切り取る。形式が純粋なものとなり、作品の自律性が高度なものとなればなるほど、作品はますます残酷になる。芸術作品の態度をより人間的なものとし、観客となるかもしれない人間に順応したものとするようにという呼びかけが行われているが、こうした呼びかけは通例、質をふやけたものとし、形式法則を軟弱なものに変える。