断片蒐集 14 アドルノ

 

美の理論 新装版

美の理論 新装版

 

 

台本や楽譜とその上演

 

演劇の台本あるいは音楽のテキストはただ単にそのようにして眺めるべきものであって、俳優あるいは演奏者に対する指示の総体として眺めるべきものではない。これらのものはいわば作品による作品自身の模倣行為の凝固したものであり、こうした模倣はたとえ意味的な要素によってつねに浸透されたものであろうと、作品自身を模倣している限りにおいて本質的なものなのだ。作品が上演されるかどうかということは、作品そのものにとってはどうでもよいことと言ってよい。だが作品についての経験が、つまり理想からするなら沈黙した内在的なものである経験が作品を模倣するということ、このことは作品にとってどうでもよいことではない。こうした模倣は芸術作品の記号から芸術作品の意味連関を読み取り、芸術作品が自己を出現させる曲線をたどるようにその連関のあとをたどる。芸術作品の異るさまざまな媒体はその模倣の法則としてそれらの統一を、つまり芸術の統一を見出す。カントにおいては、論証的認識は事物の内部について認識することは断念すべきものとされているが、芸術作品は客体、つまりその真実は内部の真実として表象する以外には表象しえない客体と見なされている。模倣はこうした内部へと導く通路にほかならない。