断片蒐集 19 伊藤整

 

日本文壇史4 硯友社と一葉の時代 (講談社文芸文庫)
 

 

幸田露伴『風流微塵蔵』

 

数珠のやうにつなぎ合はされた物語、又は環を連ねたやうに書かれた物語として一つの小説の構造をまとめてゆく方法は、その原型として「源氏物語」や「好色一代女」があり、言はば日本的な並列構造の考へ方である。露伴はそれを単なる切り離された物語の連続とせずに、その一つ一つを因果関係をもつて結びつけた一種の大河小説の型を考へて書いたのである。このやうに、小説の構成美学を考へた点で、この時期の露伴は、彼の同時代の小説作家とは全く別個な問題にぶつかつてゐたのである。彼の同時代者、紅葉は、文章と趣向といふ心理的効果によつて小説を考へてゐた。