断片蒐集 20 伊藤整

 

日本文壇史4 硯友社と一葉の時代 (講談社文芸文庫)
 

 

平田禿木露伴

 

また荒川漁郎なる評家は「太陽」で、露伴文学の特色は、他界に幽玄を求めるのがその特有の境地であり、「ささ舟」で一段の進歩を見せたと言ひ、「この精緻にして深く現実の機に接したるの点に於て、その観察と気力と優に一歩を進めたりといはざるべからず」と述べた。この荒川漁郎は、明治二十四年、露伴の「五重塔」が出た頃、その作品に熱中し、谷中天王寺町の露伴の家の近くを歩いたり、第一高等中学の寄宿舎の窓から天王寺の塔を眺めたりしてゐた露伴崇拝家の禿木平田喜一であつた。