断片蒐集 21 伊藤整

 

日本文壇史5 詩人と革命家たち (講談社文芸文庫)

日本文壇史5 詩人と革命家たち (講談社文芸文庫)

  • 作者:伊藤 整
  • 発売日: 1995/08/04
  • メディア: 文庫
 

 

 どこで読んだのかすっかり忘れてしまったが、泉鏡花露伴に対してあまり好意を抱いていなかったという記憶がある。誰かが鏡花との談話の中で露伴の話を持ちだしたところ、不愉快そうに何か毒を吐いたtのだが、その言葉が思い出せない。「生悟りの坊主」とか、「野蛮な坊主」とか、なんか坊主が入っていたような気がする。ただ時期によって、意見が変わったことは十分考えられる。何しろ露伴は師匠である尾崎紅葉の友人であったから、紅葉が生きているときに悪口を言うとは考えられない。鏡花にとって師匠は絶対的な存在であり、外で紅葉に出会ったりすると、地面に膝をついて挨拶したというから。あれほどバイ菌を怖がった鏡花がそんなことをするくらいだから、よほど絶対的な存在だった、と書いていて、この話もどこで読んだのかはっきりしないのだが、確か鏡花に近い人が、自分で見たこととして書いていたか、対談か何かで発言していたはずだから確かだと思うのだが・・・

 

鏡花と露伴

 

泉は幸田露伴を尊敬してゐて、山中の一軒家で美女のところに泊り、あとでそれが癩病の女の幽鬼であつたと分つた、といふ筋の「対髑髏」を読んでゐた。彼はまた露伴の「ひげ男」なる題に暗示されて、三十年の十二月「髯題目」といふ題で芸人の末路に仏教の救ひを与へる小説を書き、露伴に激賞されたことがあつた。