断片蒐集 24 アラン
マッセナ元帥は、ナポレオンの元で元帥になった軍人。
恐怖
多くの者が恐怖を、ことばでもってやっつけている。しかも強い論拠をもって。ところが、恐怖を感じている者はその理由など聞かないのだ。彼は心臓の鼓動と血液の波打つ音しか聞かない。もの知りぶる者は危険を感じるから恐怖が生まれるのだと言う。情念に囚われた者は恐怖を感じるから危険だと判断するのであると言う。二人とも自分の考えが正しいと主張するが、二人ともまちがっている。しかも、もの知りぶる者は二度もまちがいを犯している。ほんとうの理由を知らないのと、もう一方の誤りがわからないのである。人間は恐怖を感じると具体的な危険を考え出して、この恐怖がリアルなもので、十分確かめられたものだと説明する。ところが、どんな小さな驚きでさえも人をおびえさせる。まったく危険などないものでも。たとえば、非常に近くで不意にピストルの一発があった時、あるいは思いがけない人が現われただけでも。マッセナ元帥は暗い階段の彫像におびえて、一目散に逃げ出した。