断片蒐集 40 アウエルバッハ/活人絵とドラマ

 

 ダンテは『神曲』において、ある種の活人絵の美術館か動物園をへめぐっているようなものであり、ベアトリーチェが登場するときに、初めて本来の意味のドラマが始まる。

彼岸−−ダンテの『神曲』における

彼岸は永遠であるが現象であるし、変転もなく常に存在するが、歴史によって成就をむかえると理解される。また、この彼岸の写実性が、どんな純粋に地上的な写実性とも異なることがわかる。人間は彼岸においては、人間に起るもろもろの出来事を地上の形のままに模倣してはいても、何らかの地上的な行動や葛藤にまきこまれることはない。むしろ彼は、彼のすべての行動の結果と集積であり、同時に彼に、彼の人生と特質の中にあった決定的なものを啓示する永遠の状況の中にとらえられているのである。それによって彼の記憶は、地獄の住人にとってはかんばしくなく、無益なものではあるが、正しく、人生で決定的なものを示してくれる道へ導かれるのである。死者たちは生きているダンテにそのような状況で現われる。すべての地上的状況とその芸術的模倣にとって、特に劇的な、厳粛な、困難な模倣にとって重要な、まだ知られていない未来のもつ緊張は熄んでいる。『神曲』の中ではダンテ一人がそのような緊張を感ずることができる。