断片蒐集 41 アウエルバッハ/エッセイと随筆

 

 

石川淳は、随筆の本質を、広く本を渉猟し、そのアンソロジーをつくることだとした。大田南畝の随筆などはその見事な実例である。エッセイも最初は似た形式のものとして始まった。

モンテーニュ『エセー』

 ヴィレは、このエセーの形式が、実例・引用・格言等に由来するもので、この種の本は古代末期や中性に非常に好まれ、十六世紀に人文主義的な題材をひろめるのに役立っていたことを指摘している。モンテーニュもこの伝で始めたのであった。彼の書物はもともと注釈つきの名文集だったのだ。その枠がまもなく破られ、そえられていた注釈の比重のほうが大きくなってしまった。そして注釈の素材やきっかけとなったのは読んだものばかりでなくて、体験も加わるようになった。自分自身の体験もあれば、人から聞いたこと、身のまわりに起きたこともあった。しかし、事実を探究するための方法、および出来事の時間的継起の順序のどちらにもとらわれまいとする自由を放棄しなかったと同様に、他面では彼は、具体的な物事、実際に起きた出来事に頼るという原則をも棄てなかったのである。