ブラッドリー『仮象と実在』 47

      (しかし、自己にだけ属するような内容、非自己にだけ属するような内容があるだろうか。)

 

 発見可能な自己と非自己は具体的な集合(1)で、問題はその中身にある。本質的に非自己や自己であるその内容とはなんであろうか。多分、この探求を始める最上の方法は、対象になることがなく、その意味で非自己ではないものがなにかあるかどうか尋ねることだろう。確かに、我々はすべてのものを自分自身の前に据えることができるように思われる。我々は外側から始めるが、特徴ある過程によってより内向きな方向に向い、慎重で意識的な内省に終わる。ここで、我々はもっとも内的なものを自己の前に、自己とは反対のものとして置こうとするのである。一度にすべてをすることはできないが、熟練と労力があれば、一つ一つの細部を背景と感じられるものから切り離し、我々の前に置くことができる。いつか、遅かれ早かれ自己のすべての特徴が非自己に移されるかどうかは確実というにはほど遠い。しかし、大部分が非自己として捉えられることはまったく確かなことである。それ故、我々は自己に本質的に属するものは非常に少ないことを認めざるを得ないのである。では、理論的なことから実際的な関係に眼を転じてみよう。ここでは、私の意志や欲望の対象になることができないようなものが何かあるかどうか尋ねることとしよう。対象となるものは明らかに非自己であり、自己に対立する。もっとも内的で収奪できそうもない領域にまで入っていくことにしよう。内省は我々にあるあれこれの特徴をあらわにするが、それが異なったものになるのは可能ではないだろうか。我々が自分の内部に見いだすものはすべて、我々がしたり、考えられる限りでの反応に対立する区域であり非自己として感じられないだろうか。例えば、なんらかの僅かな痛みを取ってみよう。我々は曖昧で、もっとも内部の奥所で、不自然でかき乱された感覚をもつだろう。そして、その不安にさせるものに気づくことができるやいなや、我々はすぐさまそれに対して反応する。平静をかき乱す感覚は明らかに非自己となり、我々はそれを取り除くことを望む。そして、もしすべてのものが一度期に現実的に非自己とならないのだとしても、少なくともその例外を見いだすのは困難であるという結果は受け入れねばならないと思う。

 

*1

 

 では、関係のもう一つの側に移り、非自己がそれに矛盾するようななにかを含んでいるかどうか尋ねてみることによう。多くのそうした要素を見いだすのは容易なことではない。理論的な関係においては、すべてがいっぺんに一度期に対象とはなり得ないのは明らかなことである。ある瞬間において、いかなる意味においても、私の前にあるものは制限されているに違いない。それでは、私の精神から一時といえども完全に消え去ったわけではない非自己の残りはどうなると言えばいいのだろうか。私が言っているのは、私が特別な注意を払うことのできない環境の特徴のことではなく、私が自分の前にあるなにものかとして知覚し続けているもののことである。私が言及している特徴は、環境の水準以下にまで沈み込んでいるものである。それらは私の心にある対象の舞台装置や縁周りでさえない。それらは感情の一般的な背景以下にまで沈み、そこから、不明瞭な舞台装置にある異なった対象が分離されるのである。しかし、このことはときにはそれらが自己となることを意味している。恒常的に続く音が最適な例を与えてくれるだろう。(1)それは私の心の主要な対象になるかもしれないし、多かれ少なかれ明確な対象の伴奏であるかもしれない。しかし、さらに進んだ段階があって、そこでは感覚がなくなったと言うこともできないし、非自己としてあらわれる特徴がないというのでもない。それは多くの感情の要素のなかの一つとなり、自己が存在していたところに非自己が移されることになる。非自己がどれだけの割合となると不可能になるのかあえて尋ねはしないが、広範囲に渡っての交換が可能だというだけで十分だろう。同じことを実際的な面から見てみることにしよう。本質的に私に向かい合い、私を制限するような要素を固定するのが非常に難しいのは確かである。事実、実際的には私には決して関係しないように思えるものがある。また、ある機会に応じて私の意志や欲望の対象になるものがある。そして、もし我々が非自己に本質的なものをなにも見いだせないなら、すべては私の心に入ってくる限り感じられるものの部分をなすように思われるのである。しかし、もしそうなら、それはあるときには意志の対象となる集合に結びつくことになろう。かくして、再び、非自己は自己となる。

 

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*1:(1)魂が二つの集合に分かれると言っているのではない。事実それは可能では ない。以下に述べるところを見よ。

*2:(1)もう一つの例としては服からくる感覚があげられるだろう。