一話一言 22

 

 心情の記憶しか、彼女はもっていないのだった。

 日常的な細やかな記憶を忘れることはないが、知識に関することはすぐに忘れてしまうこと。夫は化学に夢中になり、財産をすり減らす。女性的なものをこの言葉で言い表そうとしたのかもしれないが、男性である私も同じであって、知識はザルのようにすり抜けていくが、幸福感を忘れることはない。