一言一話 56

 

ブレヒト演劇と金

矛盾するようだが、ブレヒトの演劇は金のかかる演劇である。舞台演出に信じられないような手間がかかるし、稽古の数も多く、俳優の芸に必要なら彼らにはプロとしての収入の保証もしてやらなければならない。この演劇は膨大な観客に支えられない限り、民間の資金では実現不可能なのである。いずれにしても四年前には、フランスはこうしたことに対して成熟していなかった。どんなに才能があり意志が強くても、資金を回収できる力を持つフランスの支配人は皆無だった。なるほど、作家としてのブレヒトならフランスの舞台にかけられるかもしれない。彼の作品はいろいろ解釈できるからだ。しかし、ブレヒト主義はまぎれもないひとつの文化であって、その背後にまるまるひとつの政治を必要としている。ブレヒト主義を実践するのは、たまたまだとか、むりやりというわけにはいかないのである。

不意を突かれた、考えたことのない視点だった。