一言一話 74

 

何でもないこと

 <何でもないこと>は<何でもないこと>としか言いようがない。<何でもないこと>はおそらく、どんな言いかえ、どんな隠喩、どんな同義語、どんな代用語をも許さない、言語のなかの唯一の語である。なぜなら、<何でもないこと>をその純粋な指示体(<<何でもないこと>>という語)以外のものによって言うことは、ただちに何でもないものを充満させ、それを否定することになるからである。オルフェウスがふりむいてエウリュディケを失うように、<何でもないこと>は言表化される(強く=言われる)そのたびに意味のいくらかを失う。それゆえ、ごまかす必要がある。<何でもないこと>は人を裏切る一種の暗示によって斜めに、側面からとらえられないかぎり、ディスクールによってとらえられない。

ナンセンスとは厳密に区別する必要がある。