一言一話 101

 

使うことを厳禁されていた下町言葉

 

 今、考えると「それは下町言葉」といって厳禁されていた言葉のあったことを思い出す。それはまず感謝を現わす言葉である。

 「済みません」という言葉を使ったら、ひどく怒られたのであった。そして何故使ってはいけないか、その由来を聞かされると少しは納得出来た。

 大体「済む」とは借金の返済書や会計書などに「相済み申候」と書いてあったことでも判る通り、貸借関係や負債のことをいう場合に出て来る。

 「済みません」とは、まだ私は貴方に対しての負債が済んでいないということから出ている。つまり人さまの御好意を金に換算して計量しているのである。

 山の手人種は貧乏武士の後裔が多かったから「武士は食わねど高楊枝」式の想念が根底にあったから金からなるべく遠くありたかった。

 「金のことをいうのは汚い」で人の好意を金に換算するとはいかにも商家風の考えであるというところから「済みません」は許されなかったのである。

 その代り「恐れ入ります」とか「申しわけございません」とかいっていた。何となく床に頭をすりつけて目上の人に対していうような卑屈感の伴う言葉であるが、ここいらはまだまだ封建的武家的であった。

わたくしは下町の人間でもなければ、山の手人種でもないので、「すみません」「ごめんなさい」「恐れ入ります」「申し訳ございません」などちゃんぽんに使う。