一言一話 104
カフカの徹底癖
どこまでも描写の範囲をひろげて行かなければやまなかったカフカの徹底癖は、実生活にも遺憾なく発揮された。彼はよく時間に遅れて来たが、――だらしがなくて遅れるのではなく、来る前に別のことをちゃんと片付けておかなければ承知できない性分だったからだ。世の中に大切でないものはひとつもなかったのだ。どんなことにも彼は「見切りをつけ」たりしなかった。いかなる人をも不当に扱えなかったのと同じく、身辺のいかなる物、いかなる仕事といえども不当に扱い得なかったのだ。だからカフカの前に出ると、一体卑近なものや通俗的なものがこの世に存在するだろうか、という感じを抱かせられた。
なんともしれない小動物への愛好はこの辺からきているのかもしれない。