一言一話 105

 

カフカと逆説

 

彼は、万事世間なみの考え方でやって行くべきだという偏見も、なんでもかんでも世間の考え方に反抗するのだという偏見も、二つながら持ちあわせていなかった。カフカでなによりも気持がいいことは、彼がまったく非逆説的、いやむしろ反逆説的だったことである。彼の判断は基本的な単純さとでもいうべきもの、有益なもの、具体的なものを具えていた。判断を下すにあたってカフカは慎重で、自分の間違いは、認めたくてしようがないとでもいうようにきわめて簡単に認めはしたが、判断そのものはわかりやすくて確実だった。

最初は意外に感じたが、真に不可解なものを描くには逆説などは不要である。