一言一話 118

 

『桑原武雄全集4 人間認識』

 

湖南先生

 

 

内藤湖南の本の読み方

 

先生は大ていの書物はまず序文を丹念に読み、それから目次を十分にらんだ上、本文は指さきで読み、結論を熟読すれば、それで値打はわかるはずだと漏らされたというが、それでなくては一流の学者とはいえまい、と当時の私はいたく感服したものであった。

 

 

 

君山先生

 

 

狩野直喜の辞書の引き方

 

・・・驚いたのは先生の『康煕字典』の引き方である。そばにいる私に字典をもって来させ、それをといわれるので指ざされた巻をお渡しすると、先生はいきなり両手で何かものを割るように本をやや乱暴にぐっと開かれる。求める字はそのページになくても、必ずその数ページ前後のうちにある。一、二回成功しなかったこともあったが、その際ももう一度同じ操作をくり返すだけで、指で字を書いてみて字画を勘定されることは殆どなかった。字典が先生に忠実につかえているという感じがして、はなはだ見事だった。

書物の通暁するというこういうことだろう。京都大学の中国学派のもはや伝説的な逸話。