一言一話 121

 

フランク《ヴァイオリン・ソナタ

 

レコード鑑賞家とナマの音

 

「色はあるが光はない」とセザンヌは言った。画家にとって、光は存在しない。あるのは色だけだと。光を浴びて面がどういう色を出しているかだけを、画家は視ておればいい。もともと、画布が光を生み出せるわけはないので、他のものを借りてこれを現わさねばならない、他のものとは、即ち色だ――「そうはっきり悟ったとき私はやっと安心した」と、ルノアールも言っている、セザンヌの言うところも同じだろう。――この筆法でゆけば、ぼくらレコード鑑賞家にとって音楽はあるが、ヘルツはない。そう言い切って大して間違いはなさそうに思える。演奏はあるが、ナマの音は存在しない、そう言いかえてもいいだろう。

ステレオ・マニアは怖くて一歩も足を踏み入れていない。音楽における印象派を自称するような人たちですから、敬意はもってますよ、もちろん・・・