一言一話 126

 

芥川龍之介と砕氷機

 

 いつかなど、本郷の切通しを歩いていると、「砕氷機」という大きな看板が目に付いた。すると、芥川さんが、

「砕氷機というのはおかしい」

 と言い出した。

「おかしいことはありませんよ」

 と私が言うと、

「おかしいさ。だって君、氷を砕いたら、何になるんだ?」

「大きな氷を小さく砕くんだから、ちっともおかしいことはない」

「氷を砕いたって氷じゃないか。氷以外のものになるのでなければ、おかしいよ」

 そんなことを言い合って、いつまでも歩いていた。

 

確かに、氷を砕いたら氷以外のものになると考える方が理にかなっている。