一言一話 130

 

泉鏡花が推奨する講釈師吉瓶

 

 神田伯龍という講釈師と私が親交のあるのを泉さんは誰かから聞いて知っていて、伯龍のことを話題にしてくれたことがあった。泉さんは伯龍の「薮原検校」を一席聞かれたことがあるらしく、私の耳を教育して下さるおつもりだったのだろうと思うが、ニヤ/\笑う笑い方で、ある程度伯龍を認めてはいるが、未だしという御自分の感想を上手に私に伝えながら、

「あなたなどは聞いておいででないでしょうか、吉瓶という講釈師――」

 残念ながら、私の頃は死んでいなかった。芥川さんは一度だけ聞いたと言っていられた。紺屋の職人上がりで、どうかすると、印半纏のまゝ高座に上がったこともあったという語り草を残している。印半纏というザッカケない姿で、シト/\とした口調で静御前吉野落ちなどを語らせると、水も滴るような色気があって、得も言えなかったそうだ。あのめったに人をよく言わなかった典山さえ、吉瓶のことというと、読み口の真似までして推奨していたところを見ると、余程の名人だったに違いない。

 

講談でしたたるような色気というのは、ほとんど想像に絶する。