一言一話 132

 

東京の鰻屋

 

 ウナギの好きな人は相当多い。ウナギが好きだという人に逢うと、私は口癖のように、

「どこのウナギがお好きですか」

 そう言って聞く。すると、十人が十人、竹葉だとか、飯倉の野田岩だとか言う。私は五十人ぐらいの人に同じ質問をして、

小満津が一番――」

 と答えた人にはたった一人にしかぶつからなかった。其の人は、工学博士の川上高帆さんである。

 戦争前までは、小満津の外にも、麻布芋洗坂の大和田、麹町三丁目の丹波屋、飯倉の野田岩の三件がズバ抜けてうまかった。やや下って、日本橋通三丁目の和田安、小舟町の高島屋、小網町の喜代川、神田お台所町の神田川、深川の宮川、霊岸島の大黒家、千住の尾花家、駒形の前川、麹町の秋本、まあ、この辺だったろう。安くってうまいのが千住の松のウナギ。

ウナギは大好きだが、竹葉亭にしかいったことがない。無念。