一言一話 138

 

モオロアの「英国史」について

 

歴史の持つ根柢の力

 

 過去の事実が、殆ど単に過去の事実だといふ理由で、現在の人間の虚心の裡に蘇る。歴史といふもののもつ根柢の力は其処にあるので、史書の原始的な形が素朴な年代記である事が、それを証してゐる。この根柢の力は歴史がどの様に精緻に複雑に解釈されようと変りはしない。この測り知れぬ力に関する感受性或は情操の陶冶といふものに、歴史教育の根幹があると僕は思つてゐる。さうして煩瑣な事実から豊富な創造を生み出す鍵とも言ふべき歴史感覚が養はれるのだ。

前史時代はともかく、歴史があるところには生の奔流があるので、どこで生まれたとしてもそこで産湯をつかることになって人間くささを感じることになる。