顔という風景――ユン・ガウン『わたしたち』(2015年)

 

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 アルチンボルドは野菜から動植物までを組み合わせて肖像画を描いた。シュルレアリストの絵には、顔が下腹部になっているものもある。グレタ・ガルボの顔はロラン・バルトの現代の神話学のテーマになったし、デートリッヒの顔などもある種の神話性を帯びていると言っていいだろう。デスマスク古代ローマからの伝統だというが、西欧人の凹凸のはっきりした顔ではおそらく個性が際立つ彫刻的なものとなるだろう。日本人の平坦な顔でとると、おそらくできの悪い能面のようになって、能面にあるある種の普遍性、象徴性が失われて、締まりのないものになって、構築性は失われてしまうに違いない。

 

 この映画は、さして顔の平坦さについては変わらないと思われる韓国人の小学生の女の子の顔をひたすら撮し続ける映画である。最初は冴えない子だな、と思ってしまっていた女の子の顔が、次第に愛おしいものになっていく。そこにはいじめまでもいかないような仲間はずれなどの細かい、もちろん本人にとっては深刻な疎外感や、友人だと思っていた子との感情的な齟齬などが描かれているのだが、ほとんどそんなことはどうでもよくて、そうしたことから起こる感情の震えが、流れる雲の影になったかのように彼女の顔を曇らし、気持ちのいい風のひと吹きが平地の青草を軽やかにたゆませるかのように彼女の顔の筋肉を軽やかに動かすことだけが大切であって、そこには人間と自然のあいだには見られない感情の浸透した風景があって、飽きることなくそれを見ていることができる。