幸田露伴芭蕉七部集『冬の日』評釈の評釈7

日のちり/\に野に米を刈る     正平

 

 『鶯笠』には、日のちりちりは日のまさに入ろうとするところだという。前例をあげることはできないが、まさにそうであろう。米を刈るは、正しくは稲を刈るというべきだが、俗語をそのまま用いている。田といわないで野というのは少し異様だが、原ははるかな地、野は伸びた地のことなので、ひらけた場所を野というのも咎めるべきでもない。かつまた、田圃などで働くことを野良仕事をするとも言うので、とりわけて怪訝に思うこともない。また、必ずしも陸稲をつくる地だと拘泥する必要もない。前句を寒村の夕方近いころとみて、この句はつけられた。赤馬の句、米刈りの句、いずれも短句であるが、詩心が十分で、独立して闊歩できるものである。

 

 これで表六句は終わり、裏へ移る。季をいえば、発句は木枯しで冬、脇句は山茶花で同じく冬、第三句は有明で秋であり、前句の冬に秋の月をつけたのは異様のようでもあるが、秋の月、名月などではなく、ただ有明というだけなので、前句に対して支障はない。第四句は第三句を秋として同じ季節の露、第五句はすすきで同じく秋、第六句米刈りで秋である。季節のこと、以下は註しない。