幸田露伴芭蕉七部集『冬の日』評釈の評釈18

二の尼に近衛の花の盛りきく  野水

 

 二の尼は二位の尼君などではなく、尼となった官女のなかの第二の人物である。二というのは次というのと同じで、二の宮、二の町などという言葉の二の用法に照らして見るべきである。近衛は高貴な人間を打ちかすめていったもので、謡曲西行桜』の「近衛殿の糸桜」とあるのをいったわけではない。前句の隣さかしき町に下り居る人を、既に宮仕えを辞して年月を経た者と見立てた。その人、つまり二の尼に、近衛の花の盛りのさまが問われたことを付けた。きくは問うことである。この句はどうということもない、ただ老人などが行きあうと自ずからそうした情景があるもので、そこを淡くまことしやかに写したる軽みの面白さがある。