幸田露伴芭蕉七部集『冬の日』評釈の評釈43

桃花を手折る貞徳の富 正平

 

 松永貞徳は洛外に五つの庭園をもっていた。梅園、桃園、芍薬園、柿園、蘆の丸屋である。句の意味は解釈するまでもなく明らかである。前句とのかかりは、前句の悠々自適の様子に応じたまでのことである。貞徳は長頭丸といわれていたので、麿につけたというのは面白くない解であるが、『冬の日』のころはいまだ少しはそうした古風な付け方もあったか。また、羯鼓玄宗が演奏したときに、桃や杏の花が咲いたという故事によって、「桃花を手折る」とつけたというのは無駄な部分が多い説である。前句の月を、この句からは春の月としてつくっている。