幸田露伴芭蕉七部集『冬の日』評釈の評釈53

こつ/\とのみ地蔵きる町 荷兮

 

 前句は漁師町近くの旧家などの古びた様子を句にしたが、ここでは石工の仕事場としていて、一転奇警で無理がなく、この句非常に愛すべきものである。きるは刻み削って形をつくりだすことである。石を出す地も多く、房州保田金谷は房州石を、豆洲諸地の伊豆石、根府川根府川石を出すようなものである。「壁落ちて」に石を扱う家を点出し、しかも一二軒だけでなく石屋があって、終日ただこつこつと槌の音だけがするところを取り上げ、しかも地蔵菩薩をつくると描いたところなどは、才能豊かで技術も整っているといえる。