短歌22首

 昔つくった短歌(というか狂歌)に最近つくったものを加えたものです。
 
この口はどうしてそんなに大きいの首までつかれる赤ずきんの湯
 
暗黒の深夜の蔭の闇だまり鏡に映るアリスの左手
 
あずまやに千鳥格子の掛け布団むくむく動くアリスの宮夫妻
 
姫りんご身ぐるみ剥いで差しだすは西方浄土のアフリカのイヴ
 
瓜売りが瓜売り歩く瓜市場瓜子姫には多すぎる種
 
深川砂村隠亡堀戸板返しのうらおもてお岩の顔が目減りする夜
 
旅ゆけば駿河の路は春がすみ男を上げるお蝶の茶柱
 
ぬばたまの首長姫の黒髪に行燈油を惜しみつつつけ
 
名月や千日前で啖呵売語るに落ちたシェヘラザード
 
白い空雪のなかでの姫はじめいばらの門にふと立ちどまる
 
この恨みまさかはらさでおくものか瀧夜叉姫には奉加帳のあて
 
竹婦人すきま風吹く首かしげ若竹のトリ芝浜の夢
 
黄昏の紫煙に煙るダンス場ナオミが踊る人間の床
 
陥穽の振り子の下の早がわり着たり脱いだり忙しないマハ
 
真昼間にくちなわ色の綱を引く朝顔婦人と夕顔婦人
 
親王のおわさぬ御代で吐く玉は朱色に染まる海岸に満ち
 
紅の死が褪せるまで劇化するまちこ巻きしたナミを引き連れ
 
シラクサアルキメデスの荒磯を回り道する彼岸過ぎまで
 
横須賀でヨーコがヴェスパにまたがって三面鏡で髪をうず巻きにして
 
水棲の累卵満ちる沢野辺に寄せては返す夜々の思念を
 
薄倖の女だてらの片小袖諸肌脱ぐと蛸の彫りもの
 
石ひとつ月の光をはかりかね弁天さまの腹で水練