2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

黄昏の領域 1 サミュエル・ボダン『マリアンヌー呪われた物語ー』(2019年)

www.netflix.com 制作総指揮・監督・脚本 サミュエル・ボダン 出演:ヴィクトワール・デュポワ、ティファニー・ダヴィオ、アンバン・ルノワール、ルシー・ブシュナー Netflixのドラマ。フランスのホラー映画の印象はあまりなくて、大昔のジョルジュ・フラン…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 12

悲劇 悲劇の断念はこの同じ個人的な限界に基づいている。しかし、悲劇作家の作品に用いられている文化的資材は原始的叙事詩の発生にあったものよりも、より都会的で、複雑で、洗練されている。運命論、讃美、卑下の同じ魔術的思考様式が存在するが、それらは…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 11

アエネーイス (上) (岩波文庫) 作者:ウェルギリウス メディア: 文庫 アエネーイス (下) (岩波文庫) 作者:ウェルギリウス メディア: 文庫 第二章 詩的範疇 シンボリズムの構造を解明するためには、多様な文学的範疇を調べてみるのがよく、それぞれの偉大な詩…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 10

未来派の感傷的な受容 「未来派」はこの潮流で重要な位置を占めている。というのも、マリネッティのような作家は決して幅広い人気は得なかったが、彼ほど「効力」をもたなかった諸運動の集中点、摘要となっているからである――そして、彼の発案は、断片的にあ…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 9

枠組の強調点の変化 西欧文化の歴史的な軌跡を調べるときに、古典的な断念の強調から、革新的な(「ファウスト的な」)自由の強調への転換で成し遂げられたものを見ることでよりよい理解を得ることができる。職業についての革命的な哲学はそれまで僅かな者に…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 8

拒絶 「拒絶」は「受容」の副産物に過ぎない。第一に、それは強調点を含んでいる。なんらかの支配的権威のシンボルに対する姿勢であり、権威のシンボルへの忠誠の転換が強調される。正統に対する異端であり、その意味においてそれが拒絶する「受容の枠組」と…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 7

「受容」と「受動性」 一般的な例で言おう。あらゆるシンボルの構造はなんらかの形でこうした「受容」を生みだすためにつくられていると言えないだろうか。最も些細な例を挙げると(過度の単純化によって仕掛けが感傷的なものになっているが)、ポリアンナ【…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 6

多分、エマーソンの仕事の特質が最も完全な形で表現されているのは「補償」に関するエッセイである。エマーソンが直面した技術的な問題は容易に言いあらわすことができる。「極性」の説を主張することで、善の励ましを受けて悪に立ち向かえる。あらゆる悪に…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 5

ホイットマンは、ジェイムズの詩による複製ではないだろうか。「開けた道の歌」は「感得の深い教え」について説いている。「世界への挨拶」で「地球のすべての住人」を歓迎している。彼はブレイクの普遍的愛と同じくらい無差別であろう。物事が表面上悪く思…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 4

多分、その最も鮮やかな例はスペンサーの戯画化にある。スペンサーはこう書いている。 「進化とは物質とそれに伴う運動の散逸とが統合されたものである。それを通じて、物質は、非限定的でちぐはぐな均質性から限定され一貫した不均質に変わる。保持された運…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 3

根本的経験論 (イデー選書) 作者:ウィリアム ジェイムズ 発売日: 1998/05/01 メディア: 単行本 父親の熱意は、独立した考えをもたせるために教えるというものだった。「彼が属し、その主導者でもあった学派は彼だけで成り立っていると言える」とペリー教授は…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 2

ラルフ・バートン・ペリーの優れた著作『ウイリアム・ジェームズの思想と人間』は、いかにジェームズが彼の哲学の「受容」の枠組を形成したか理解するための材料が豊富に含まれている。そこから我々の目的にあったものを選び、その証言が意味するところを簡…

ケネス・バーク『歴史への姿勢』 1

第一部 受容と拒絶 第一章 ウィリアム・ジェイムズ、ホイットマン、エマーソン 「宇宙を受け入れる」か「それを拒むか」。ウィリアム・ジェイムズはそう並べ、それが「自発的に行われる二者選択」であり、「ある種の悪に陥ったときに精神は両者の間を揺れ動…

白銀の図書館 17 プラトン的荒野〜河上徹太郎について Ⅸ

都築ケ岡から (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ) 作者:河上 徹太郎 メディア: 文庫 吉田松陰 武と儒による人間像 (講談社文芸文庫) 作者:河上徹太郎 発売日: 2015/01/09 メディア: Kindle版 河上徹太郎私論 作者:遠山 一行 メディア: 単行本 歌舞伎には伝…

白銀の図書館 16 プラトン的荒野〜河上徹太郎について Ⅷ

都築ケ岡から (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ) 作者:河上 徹太郎 メディア: 文庫 日本のアウトサイダー(新潮文庫) 作者:河上 徹太郎 発売日: 2016/06/17 メディア: Kindle版 ここに至って、河上徹太郎にとって市村羽左衛門という存在がもつ意味合いが…

白銀の図書館 15 プラトン的荒野〜河上徹太郎について Ⅶ

都築ケ岡から (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ) 作者:河上 徹太郎 メディア: 文庫 「型」は、役者が伝統的に受け継いできたものだけを意味するのではない。例えば、コメディのチャップリンやキートンやマルクス兄弟、西部劇のジョン・ウェイン、ミュージ…

白銀の図書館 14 プラトン的荒野〜河上徹太郎について Ⅵ

都築ケ岡から (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ) 作者:河上 徹太郎 メディア: 文庫 なにぶん接したことのない役者たちばかりで、手袋をはめた手で靴の上から痒いところを掻くかのようなまどろっこしさを覚えないわけにはいかないが、それは致し方あるまい…

白銀の図書館 13 プラトン的荒野〜河上徹太郎について Ⅴ

また、正宗白鳥も羽左衛門には賞賛を惜しまない。三宅周太郎との「芸談義」という対談で、羽左衛門を次のように位置づけている。 左団次が出て、一時、昔風の歌舞伎は勢いが衰えていた。左団次が盛んな時は、歌舞伎は羽左衛門が閑却されたようだった。しかし…

白銀の図書館 12 プラトン的荒野〜河上徹太郎について Ⅳ

谷崎潤一郎の『芸談』(昭和8年)も同じことを異なった例えで述べていると言えるかもしれない。 劇の内容や全体の統一などに頓着なく、贔屓役者の芸だけを享楽する、と云ふやうな芝居の見方は邪道かも知れないが、私はさう云ふ見方にも同情したい気持ちがある…

白銀の図書館 11 プラトン的荒野〜河上徹太郎について Ⅲ

流れる (新潮文庫) 作者:文, 幸田 発売日: 1957/12/27 メディア: 文庫 女主人は「演芸会」のために毎日清元の練習をしている。その会とは「みんなが力を協せて、わが土地のためによそ土地に負けない名舞台・名演技をしようといふのではなくて、たがひに意地…

白銀の図書館 10 プラトン的荒野〜河上徹太郎について Ⅱ

流れる (新潮文庫) 作者:文, 幸田 発売日: 1957/12/27 メディア: 文庫 自伝的なものはいくつか書いているが、そこでもまた具体的な細部は洗い流され、精神的な道程となっていて、詳細はわからないにしても、音楽批評から執筆をはじめた河上徹太郎は、若い頃…

白銀の図書館 9 プラトン的荒野〜河上徹太郎について Ⅰ

吉田松陰 武と儒による人間像 (講談社文芸文庫) 作者:河上徹太郎 発売日: 2015/01/09 メディア: Kindle版 河上徹太郎は日本では他に類をみないプラトン的な批評家である。随伴したと思われている小林秀雄が、常に名人や達人、あるいは名品や本物といった個物…

白銀の図書館 8 演奏と批評〜遠山一行について Ⅳ

現代と音楽 (1972年) 作者:遠山 一行 発売日: 1972/06/12 メディア: 単行本 第三の驚きは、あるいは、私にとって最も大きいものだったかもしれない、というのも、そこではまさしく私が西欧音楽を聞くきっかけになったグレン・グールドやミケランジェリといっ…

白銀の図書館 7 演奏と批評〜遠山一行について Ⅲ

名曲のたのしみ (1967年) 作者:遠山 一行 メディア: - 第二の驚きは、西欧音楽において、バッハからガーシュインまでのなかから、100曲を選ぼうという途方もないことが企てられる『名曲のたのしみ』という本によるもので、長い歴史のなかから100曲を…

白銀の図書館 6 演奏と批評〜遠山一行について Ⅱ

カラー版作曲家の生涯 ショパン (新潮文庫) 作者:一行, 遠山 発売日: 1988/07/28 メディア: 文庫 それにしても冒頭がショパンである。ピアノという楽器が好きな私は、ピアニストのCDを薄く広く聞いてきたが、浅知恵と虚栄心から、バッハやハイドン、モーツア…

白銀の図書館 5 演奏と批評〜遠山一行について Ⅰ

自明だと思われていることを疑問視することから批評は生まれる。少なくとも日本において、遠山一行は音楽という分野においてほとんど唯一の批評家である。武満徹や高橋悠治は作曲や演奏の傍ら文章をよくしたが、作曲、演奏の副産物であり、自らの成立基盤で…

電気石板蚤の市 4 種村季弘『東海道書遊五十三次』(2001年)

東海道書遊五十三次 作者:種村 季弘 メディア: 単行本 朝日新聞社からの刊行で、東海道五十三の宿場に関連した江戸以前まで含めた日本文学を紹介していく。小田原から熱海まで人車という乗り物が走っていた。 十人乗りくらいの箱車を四、五人の法被姿の男が…

電気石板蚤の市 3 田中小実昌『オチョロ船の港』(1979年)

オチョロ船の港 (1979年) 作者:田中 小実昌 メディア: - 7編の短編からなっている。泰流社というあまり聞かない出版社からでている。バスに乗るのと哲学書を読むのが好きな作家。同名の短編の冒頭のあたり。 道路の表面がしろいのは、瀬戸内の花崗岩系の土…

電気石板蚤の市 2 相倉久人『ジャズからの挨拶』(1968年)

相倉久人 ジャズ著作大全 / 上巻 作者:相倉 久人 発売日: 2013/12/25 メディア: 単行本 相倉久人 ジャズ著作大全 / 下巻 言葉によるジャズ行為の爛熟章 作者:相倉 久人 発売日: 2014/03/18 メディア: 単行本 ジャズからの挨拶 作者:相倉 久人 メディア: 単行…