ポエティカ 2 鬼貫句選 Ⅰ
春之部
大旦むかし咲きにし松の風
大旦「おほあした」と読み、元日のこと。旦は太陽がはじめてのぼる早朝を意味するから、一年の最初の特別な朝のことを特に大旦といった。松の黄色い粒々を花として見ていたのだろうか。松は、盆栽で好まれるとともに、松風という言葉があるように、その形姿とともに、吹き渡る風の音が賞玩された。
ほんのりとほのや元日なりにけり
光がほのめくというときのように、元日の朝がほんのりとあけていったということか。
老松町
我宿の春は来にけり具足餅
老松町は横浜の野毛坂近くにある街ではなく、大阪府南天満にあった場所の旧町名。具足餅は鏡餅と同じで、二十日頃に鏡開きをすることから、刃、柄(二十日)と具足とをかけた。
中垣や梅にしらける去年の空
中垣は隣家とを隔てる垣。夜明けで、あけていない隣家の空が白梅でしらけているということか。
五器の香や春立つ今日の餅機嫌
五器は御器と同じで、うつわのこと。うつわも揃って。正月にふさわしい雰囲気になったということ。