断片蒐集 12 アドルノ
ベケットと理性
ベケットの芸術は表面的な合理性から堅く身を守り、こうした合理性から切り離された芸術であるが、彼の芸術はいかなる瞬間においても事柄に内在する理性によって貫かれている。だがこうした理性を持つことはけっしてモダニズムの特権ではなく、それはたとえば晩年のベートーベンが行っている省略からも、つまり余計なものであり、その限りにおいて非合理的なものでもある付加物を彼が断念しているところから、同様に読み取ることができる。逆に粗悪な芸術作品などは、なかんずくぎくしゃくした音楽などは内在的な愚かさによって貫かれているが、モダニズムがその掲げる成熟の理想を通してとりわけ非難し反撥したものは、こうした愚かしさにほかならなかった。芸術作品はであって構造でもあるというによって、過激な態度に慎重さを結びつけることを、それもつけ足り的に考えられ偽物にすぎないような補助的仮説を用いることなく結びつけることを、強制されている。