スクラップ・ブック

断片蒐集 53 自己意識と原罪

thomas aitizer,The Genesis of God 統合された「私」というのは、ユートピアでしかない。分裂した私も病的になると厄介だろうが、もともと私には充填されることのない穴が空いている。 ナルシシズムとユートピア的「私」 神と罪との関係 アウグスティヌスは…

断片蒐集 52 始まりと終わりの神秘

thomas aitizer,The Genesis of God 創世記と黙示録が揃っているというのは、考えてみると不思議な宗教である。生きているあらゆる人間が物語の登場人物たり得るわけである。 ヘーゲル、マルクス、キルケゴール マルクスとキルケゴールはヘーゲル体系の真の…

断片蒐集 51 青木正児/石になった仙人は夢を見るか

酒中趣 (1984年) (筑摩叢書〈289〉) 作者:青木 正児 メディア: - 『神仙伝』のなかに、さる仙人が宮廷に招かれ、術を披露しろと命じられたところ、たちまち石と化した、というエピソードがあったと思う。幸田露伴の『新浦島』という小説は、それ以前にさま…

断片蒐集 50 青木正児/樽から樽へ帰るひもがな

酒中趣 (1984年) (筑摩叢書〈289〉) 作者:青木 正児 メディア: - 私はもう酒をのまなくなって10年くらい経つ。惜しむらくはこんな馬鹿馬鹿しい辞世の歌を残せなくなったこと。 大酒の会 江戸初期慶安の頃江戸に大酒戦が行はれた。一方の大将は地黄坊樽次…

断片蒐集 49 マイケル・エイヤー/その実体は・・・

Locke (Arguments of the Philosophers) 作者:Ayers, Michael 発売日: 1993/12/02 メディア: ペーパーバック 伝統的な実体とは、馬は4本足で、たてがみとしっぽがあり、顔は細長く、乗ることができるなどといった五感から得たものの集大成であり、むしろロ…

断片蒐集 48 マイケル・エイヤー/概念ー経験論

Locke (Arguments of the Philosophers) 作者:Ayers, Michael 発売日: 1993/12/02 メディア: ペーパーバック ロックが経験論の始祖とされ、教義上はまったく異なるデカルトと対話(現実にというか思想的に)することができた理由がわかる。 経験論から概念—…

断片蒐集 47 青木玉/江戸の女

幸田文の箪笥の引き出し (新潮文庫) 作者:青木 玉 メディア: 文庫 商家の下女が如来の化身だと見立てられたように、酒席の一場面を舞台の一場面として切り取る方の久保田万太郎もまた江戸的であり、遠い江戸の余香が立ち込めるようなエピソードである。 幸田…

断片蒐集 46 青木玉/生地とテクノロジー

幸田文の箪笥の引き出し (新潮文庫) 作者:青木 玉 メディア: 文庫 着物というのは最終的には生地を身に纏うことに収斂される。ほつれれば継ぎがあてられる。いま我々がまとっているのは手仕事ではなく、テクノロジーであり、そのため継ぎが決定的に異質なも…

断片蒐集 45 エイヤー/まがいものの世界のなかで

言語・真理・論理 作者:A.J.エイヤー 発売日: 1955/02/25 メディア: 単行本 こうした論理実証主義的な考え方には現在ではほとんど興味はないが、あくまで原理、原則を見出そうという姿勢には敬意を感じる。 意味のある文章 我々は、次のような場合、そしてた…

断片蒐集 44 江藤淳/リア王と仙人

決定版 夏目漱石 (新潮文庫) 作者:淳, 江藤 発売日: 1979/07/27 メディア: 文庫 「愛」や「倫理」は虚構であるかもしれないが、少なくとも西欧においては、言葉と同じく意識を持つ人間にとって切り離すことのできないものとしてある。俗世を離れる、つまり言…

断片蒐集 43 江藤淳/愚鈍であること

決定版 夏目漱石 (新潮文庫) 作者:淳, 江藤 発売日: 1979/07/27 メディア: 文庫 小器用さより愚鈍さが貴重だ。 文学が判らぬという才能 漱石 彼らは[藤村や花袋]、この狂人めいた文部省留学生にくらべてはるかに西欧文学の魅力に忠実だったので--即ち、日…

断片蒐集 42 アウエルバッハ/あまりに人間的な

ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈下〉 (ちくま学芸文庫) 作者:エーリッヒ アウエルバッハ メディア: 文庫 歴史認識と自己認識の深さが直結することがエッセイの発明だった。 自己認識の企図 モンテーニュ 任意の一つである自分の生活をモンテー…

断片蒐集 41 アウエルバッハ/エッセイと随筆

ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈下〉 (ちくま学芸文庫) 作者:エーリッヒ アウエルバッハ メディア: 文庫 石川淳は、随筆の本質を、広く本を渉猟し、そのアンソロジーをつくることだとした。大田南畝の随筆などはその見事な実例である。エッセイ…

断片蒐集 40 アウエルバッハ/活人絵とドラマ

ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈上〉 (ちくま学芸文庫) 作者:エーリッヒ アウエルバッハ メディア: 文庫 ダンテは『神曲』において、ある種の活人絵の美術館か動物園をへめぐっているようなものであり、ベアトリーチェが登場するときに、初めて…

断片蒐集 39 アウエルバッハ/剣と恋

ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈上〉 (ちくま学芸文庫) 作者:エーリッヒ アウエルバッハ メディア: 文庫 最近のアニメには騎士が多く登場するが、作者が意識的なのかはともかく、伝統に則っている。 宮廷世界を縁取りする規範 宮廷世界において…

断片蒐集 38 アウエルバッハ/小説から遠く離れて

ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈上〉 (ちくま学芸文庫) 作者:エーリッヒ アウエルバッハ メディア: 文庫 『ミメーシス』はホメーロスと聖書の比較から始まっているが、小説にはまだ遠い。この本は歴史や時間を見出すまでの文学論でもある。 予…

断片蒐集 37 アウエルバッハ/堰き止められた源流

ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈上〉 (ちくま学芸文庫) 作者:エーリッヒ アウエルバッハ メディア: 文庫 ホメーロス的人物は存在できなくなった。バカになってしまう。『ドラゴンボール』の孫悟空など無垢で最強の人物にホメーロス的残滓がある…

断片蒐集 37 アウエルバッハ/堰き止められた源流

ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈上〉 (ちくま学芸文庫) 作者:エーリッヒ アウエルバッハ メディア: 文庫 ホメーロス的人物は存在できなくなった。バカになってしまう。『ドラゴンボール』の孫悟空など無垢で最強の人物にホメーロス的残滓がある…

断片蒐集 36 岩井寛/うつ病の時間

ヒューマニズムとしての狂気 (NHKブックス (402)) 作者:岩井 寛 メディア: 単行本 今は躁病とあわせて双極性障害と言われることが多い。小説家でエッセイストの北杜夫は、自身が躁鬱病であることを公言していたが、現在のように病気としての側面が前面に出て…

断片蒐集 35 岩井寛/覚醒への敏感さ

ヒューマニズムとしての狂気 (NHKブックス (402)) 作者:岩井 寛 メディア: 単行本 現実が遠くにあるのではなく、身近にありすぎて処理できない。 分裂病者の覚醒レベル 呼吸、脈拍、血圧、自律神経機能などを調べて、分裂病者は正常者に比べて極度に覚醒レベ…

断片蒐集 34 ロバート・アルター/ユートピアとしての断片

Necessary Angels: Tradition and Modernity in Kafka, Benjamin, and Scholem 作者:Alter, Robert 発売日: 1991/03/01 メディア: ハードカバー ベンヤミンの『パサージュ論』は膨大な断片の集積のように見えるが、 実は一般的な読者が考えている以上に完成…

断片蒐集 33 ロバート・アルター

Necessary Angels: Tradition and Modernity in Kafka, Benjamin, and Scholem 作者:Alter, Robert 発売日: 1991/03/01 メディア: ハードカバー 晶文社の著作集の一巻に「シュルレアリス」があるように、ベンヤミンは友人のアドルノやショーレムと異なり、シ…

断片蒐集 32 奥野信太郎

中国文学十二話 (NHKブックス 75) 作者:奥野 信太郎 メディア: 単行本 逆にいえば、シノプシスとしての短編が考えられる。 唐代の短編小説 いろいろの文学史に、唐代になって短編小説ができたと書いてありますが、これはちょっとわたくし、異議があるので、…

断片蒐集 31 奥野信太郎

中国文学十二話 (NHKブックス 75) 作者:奥野 信太郎 メディア: 単行本 広大な中国では天と地との対照が鮮やかで、巷のこぼれ話と神意が張り詰めた糸のように繋がっていそう。日本では天が低く、神の住む場所としては役不足。 街のこぼれ話 街のこぼれ話、と…

断片蒐集 30 奥野信太郎

中国文学十二話 (NHKブックス 75) 作者:奥野 信太郎 メディア: 単行本 今更鷗外が博識なのにびっくりはしないが、教養がある人がいないと、こちとら無教養な人間が生きにくい。 鷗外と左伝 明治大正の文豪として誰でも知っている森鷗外は、『左伝』の文章を…

断片蒐集 28 アラン

アラン 幸福論 (岩波文庫) 作者:神谷 幹夫 発売日: 2014/12/18 メディア: Kindle版 「想像された幸福」とは、幸福な生涯というときの全体的なもので、「実質的」な幸福は生活の肌理となろう。 幸福 幸福は自分の影のようにわれわれが追い求めても逃げて行く…

断片蒐集 27 アラン

アラン 幸福論 (岩波文庫) 作者:神谷 幹夫 発売日: 2014/12/18 メディア: Kindle版 とはいうものの、私はあくびをあまりしない。この前いつしたか思い出せない。まあ、いちいち覚えているようなものでもないので、思い出せないことはさておき、睡魔に襲われ…

断片蒐集 26 アラン

アラン 幸福論 (岩波文庫) 作者:神谷 幹夫 発売日: 2014/12/18 メディア: Kindle版 犬は子供の頃に飼っていたが、もちろん暖炉もなく、そのせいでもないだろうが、あくび姿はあまり記憶にない。しかし、動物で最もしどけない姿をするのは、リクガメだと思う…

断片蒐集 25 アラン

アラン 幸福論 (岩波文庫) 作者:神谷 幹夫 発売日: 2014/12/18 メディア: Kindle版 手元に本がなにので確かめられないが、船の箇所はタイタニックのことを言っているのかしら。 恐怖と悲劇 シェークスピアの『マクベス』のなかに、城館に朝がきて門番が夜明…

断片蒐集 24 アラン 

アラン 幸福論 (岩波文庫) 作者:神谷 幹夫 発売日: 2014/12/18 メディア: Kindle版 マッセナ元帥は、ナポレオンの元で元帥になった軍人。 恐怖 多くの者が恐怖を、ことばでもってやっつけている。しかも強い論拠をもって。ところが、恐怖を感じている者はそ…