断片蒐集 28 アラン

 

アラン 幸福論 (岩波文庫)

アラン 幸福論 (岩波文庫)

 

 「想像された幸福」とは、幸福な生涯というときの全体的なもので、「実質的」な幸福は生活の肌理となろう。

幸福

幸福は自分の影のようにわれわれが追い求めても逃げて行くと人は言う。しかしたしかに、想像された幸福はけっして手に入れることができない。でも、つくり出す幸福というのは、想像されないもの、想像できないものなのだ。それは実質的なものでしかあり得ない。そのイマージュだけを描くことは出来ない。物書きのよく知るように、美しい主題などない。いや、ぼくはさらにこう言いたい。美しい主題には気をつけなければならない。眺めていないでそれにすぐに近付き取りかからねばならない。幻影をなくすために。それが希望などは棚に上げて、信念を持つことである。壊すこと、そしてつくり直すこと。おそらくその時、わかるであろう、小説とその小説の書かれる契機となったほんとうの冒険との間には驚くべき相違がつねにあることが。絵かきよ、モデルの微笑に気をよくして時を浪費することなかれ。