断片蒐集 26 アラン

 

アラン 幸福論 (岩波文庫)

アラン 幸福論 (岩波文庫)

 

 犬は子供の頃に飼っていたが、もちろん暖炉もなく、そのせいでもないだろうが、あくび姿はあまり記憶にない。しかし、動物で最もしどけない姿をするのは、リクガメだと思う。東日本大震災で死なせてしまったが。

 

あくび

 犬が暖炉のそばであくびをしている。これは猟師たちに気がかりなことは明日にしなさいと言っているのだ。気取りもせずどんな礼儀もなしに、伸びをするあの生命力は、見ていてもすばらしいし、引き込まれ真似をしたくなる。周囲の人たちはみんな伸びをし、あくびをしたくなるはずだ。これが寝支度の開始となる。あくびは疲労のしるしではないのだ。あくびはむしろ、おなかに深々と空気を送り込むことによって、注意と論争に専念している精神に暇を出すことである。このような大変革(精神のはたらきをばっさり切ること)によって、自然(肉体)は自分が生きていることだけで満足して、考えることには倦き倦きしていることを知らせているのである。