断片蒐集 33 ロバート・アルター

 

Necessary Angels: Tradition and Modernity in Kafka, Benjamin, and Scholem

Necessary Angels: Tradition and Modernity in Kafka, Benjamin, and Scholem

  • 作者:Alter, Robert
  • 発売日: 1991/03/01
  • メディア: ハードカバー
 

 晶文社の著作集の一巻に「シュルレアリス」があるように、ベンヤミンは友人のアドルノショーレムと異なり、シュルレアリスムから直接的な影響を受け、ひいてはフランス文化に親炙し、それが未完成に終わったボードレール論にまで通じていた。

 

パサージュ論とシュルレアリスム

 

 将来の『(ユダヤ神秘主義の)主潮流』の計画を告げる[ショーレムへの]手紙への返事(1935年8月9日)で、ベンヤミンショーレムに、最初『パサージュ論』(パリのアーケード)と呼び、次に『パリ、十九世紀の都市』と呼ぶようになった本についてのじらすような内容説明を行なっている。「この仕事は、シュルレアリスムを哲学的に価値づける――とともに揚棄する――ものであると同時に、現存在がもっともめだたずに定着されているもののなかに、いわば現存在の廃物のなかに、歴史のイメージを捉えようとする試みでもあるのだ。」この格言的な定式でベンヤミンが意味しているのは、彼が実際に書いた『パサージュ論』の断片や、晩年のボードレールについての二つのエッセイなどからおそらくは推測できよう。

 ボードレールの批評的注解で、議論はしばしばシュルレアリスムの詩のように、自由連想の運動に従って進んでいる。つまり、ボードレールの詩にある熱狂したパリの群衆がベンヤミンをジェイムズ・アンソールの絵にあるカーニバルの群れへ、全体主義国家での警官と略奪者との容赦のない共謀へ、「人間の感覚中枢が諸衝撃の知覚で複雑な訓練に従うことになる」スナップショット写真の、映画の発明へと運ぶことになる。我々がボードレールの詩から現代歴史の幅広い諸力と雑多で些細なものへと向かうとき、シュルレアリスト自由連想は「揚棄」されるが――否定され、高められ、維持される――というのも、厳格な歴史的-哲学的分析を行なおうとする際の媒体となるからである。