断片蒐集 36 岩井寛/うつ病の時間

 

 今は躁病とあわせて双極性障害と言われることが多い。小説家でエッセイストの北杜夫は、自身が躁鬱病であることを公言していたが、現在のように病気としての側面が前面に出て、問題視されると、彼がクレッチマー的な気質として語っていたのか、病気として語っていたのか曖昧になってくる。

うつ病の時間

正常者は血液中の電解質の価が、二四時間内に、昼夜二つの局面をもって変化するが、うつ病者ではその変化が異常にひき伸ばされ、数日間隔の変化になってしまうという実験報告がある。つまりうつ病は、人間の生体に昼と夜、潮の満干、月の引力、宇宙の運行などと呼応して、その時々の変化が現われる特徴があるにもかかわらず、地球上の時間と生体のリズムの間にズレを生じてしまうのである。したがって、うつ病者が体験する時間は非常に特殊である。大かたのうつ病者は時間が異常にひき伸ばされると感じている。つまりうつ病者は、生体内のリズムをつかさどる生理学的な障害のために、生理学的に時間を知覚する機能が障害される。さらにうつ病者は、もともと執着的で秩序にこだわる性格をもっており、過去にこだわる傾向がある。