幸田露伴芭蕉七部集『冬の日』評釈の評釈41

鶉ふけれと車引きけり  荷兮

 

 鶉の啼くのをふけるという。細川幽齋に、いい鶉の値を問うと五十両だといわれたので「立寄りて聞けば鶉のねも高しさても欲にはふけるもの哉」という狂歌がある。ふけるの語の意味、これによって知るべきである。車引きけりは、搢紳公家などが牛舎をひくことである。一句の意味は、鶉を聞きに出かけた貴人の車が向かった先で、鶉啼けよ、と草深い郊外を御簾をかけた牛車がのどかにひかれるさまをいったものである。「と」の字の働きで、静かに注意深く車をひかせているのが明らかになっている。前句を都外れの野の景色と見なして、一転したのは、いつもの荷兮の劇的な趣向で、趣があるともいえる。