五大洋発掘記 1 谷川晃一『冗句パノラマ館』

 

 

 沖積舎 1983年

 最近積み重なった古本を崩さなければならない事情があって、山のなかには当然買っただけで読んでいなかった本が発掘されるわけで、題して「五大洋発掘記」。あくまで自宅で発掘しているところが効率的といおうか、閉鎖的なのだが、私の生活範囲でいえば、ブック・オフを含めて古本屋は二軒しかないので、どちらにしてもたかがしれている。

 

 学生時代には美術館にもよく行ったし、画集も買っていたのだが、美術館に行かなくなったのは諸事情あるが、画集を買わなくなったのは本当につまらないが切実な理由で、画集は判型がばらばらなものだから、整理がしにくいというただそれだけの理由なのである。漫画を買わなくなったのも、新書版が積み重ねるとすぐに崩れてくる重ね置きに脆弱な判型だから。もっともそれで買わなくなるくらいだから私の関心もその程度だったのかもしれない。

 

 この本は、ほぼ半分を占める「動詞的美術論」が面白い。「包む」「開く」などの動詞の単語によって、現代アートの面々を紹介している。「包む」といえば、高層ビルや入江などの自然までも包んでしまうクリストが有名だが、60年代には赤瀬川原平もまた、扇風機やラジオをクラフト紙と麻紐で梱包していたという。包まれた扇風機やゆっくりと首を振り、ラジオはこもった音で経済市況を流し続けていた。クリストが最終的には地球を覆いたいのだろうということから俄然はなしはボルヘス的になる。

 

 「糞ばる」という箇所で紹介されているのはゾンネンシュターン、ゾンネンシュターンの日本最初の展覧会を私は見ている。これは単なる自慢。

 

 もっとも関心をもったのは、「編む&織る」で紹介されているポーランドのアーティスト、アバカノヴィッチで、繊維によって編み上げ、織られた人体は、モノクロながら質感が迫ってくる。ウィキペディアで見ると、立派な顔をしておられる。