2022-06-04から1日間の記事一覧

幸田露伴「あやしやな」

明治二十二年の短編。日本人が一人も登場しない。ある男が死に、殺人事件と疑われる。関係者のうち、妻と医者は容疑を離れ、夫婦の娘に乱暴をはたらき、自殺に追いやった伯爵が犯人だとわかる。ゴシックロマンス的な探偵小説を目指していて、幽霊のようなも…

幸田露伴芭蕉七部集『冬の日』評釈の評釈53

こつ/\とのみ地蔵きる町 荷兮 前句は漁師町近くの旧家などの古びた様子を句にしたが、ここでは石工の仕事場としていて、一転奇警で無理がなく、この句非常に愛すべきものである。きるは刻み削って形をつくりだすことである。石を出す地も多く、房州保田金…

トマス・ド・クインシー『自叙伝』23

こうした新鮮な訓練を受け、五、六年が過ぎて彼の歳が私のほぼ倍になると、兄はごく自然に私を軽蔑した。そして、過度の率直さから、それを隠そうと骨折ろうとはしなかった。なぜそうする必要があったろう。誰が彼の軽蔑によって悩ましく感じる権利を持ち得…

ブラッドリー『論理学』89

第六章 判断の量【名辞の範囲】 §1.ある観念を考えるとき、その内容に注目するなら(1)、内包、あるいは含意を得る。その拡がりは、二つの異なった方向をもっている。それは一つの事例であるか諸例であり、観念的であるか現実的である。(2)それは究極…