原理にまで還元しがたい頑固な事実

 「原理にまで還元しがたい頑固な事実」という言葉は、ウィリアム・ジェイムズが、簡略版でない大部な方の『心理学』を書き終わるに当って、弟の小説家ヘンリー・ジェイムズへの書簡で書いた言葉である。そうした事実にもひるまず、一つ一つの文章を練り上げていかなければならない、と手紙は続き、不規則で、いまここでしか存在し得ない事実を、ねじ伏せる様にして学問にしていく姿が垣間見られる。しかし、この言葉をもっとも魅力的に使ったのはホワイトヘッドであって、我々をとらえる直接の喜びを示したとしてあげられているジョット-、チョウサ-、ワーズワースホイットマン、ロバート・フロストの系譜に自らも身を連ねている。つまり、「原理にまで還元しがたい頑固な事実」は、科学、哲学、芸術が出発し、環帰する回帰点なのである。