一言一話 89

 

サド 表現

 サドの第一の異常性とはこういうことである。というのは彼のもろもろの理論的思考がおのれが結びつけられている非合理的な力を瞬間ごとに解放しているからであって、またこれらの力は、ある圧迫によって思考を活気づけると同時に混乱させるため、[思考]は抵抗し譲歩し、制御しようとつとめ、また事実制御するのだが、しかし他の暗黒の力を解放することによってのみ成功するのであり、再び思考は[非合理で暗黒な力に]引きずられ、道をそらされ、転落させられてしまうのだ。その結果、言われたことはすべて明快であるが、言われなかった何ごとかの思いのままに見えること、さらにもう少し後で、自由に言わせてもらえなかったことがあらわになり論理の手で再び捉えられるが、今度はなおも隠されている力の動きにしたがうこと、そして最後に、いっさいが明るみに出されて表現に到達するが、しかしまた考察不充分な思考と方式化されにくいもろもろの瞬間の暗闇の中にいっさいが再び潜ることになるのだ。

 

明快でありながら晦冥なサドの文章。