一言一話 142
演技について
そんなにむかしのことではないが、あるリポーターが、わたしに『白熱』についていろいろと質問し、刑務所のなかでわたしが母親の死の知らせを受けて泣きわめきながらあばれまわるシーンをやったときに、わたしがすっかりその気になってやったのかどうか、みずから一種の自己暗示をかけて演じたのではないか、そういう“心理状態”をつくり出すのに苦労したのではないか、ときいたことがあった。わたしは、ただ、自分自身その気になってやるわけではなく、そういう“心理状態”などつくり出すわけでもなく、ただそれをやるだけだ、と答えた。ちょっとした古い俳優連中なら、その種の質問には、同じように答えるだろう。一つのシーンを演じるのに俳優が心理的な動機をさがして納得するなんていう考え方をあざ笑うことだろう。プロというのは、なにをすべきかを心得ている人間のことだ。そして、それをやってみせるだけだ。
偉大なる反スタニスラフスキー・システム。